OpenAIが、生成AIの活用を大きく前進させる発表を行いました。同社の年次開発者イベント「DevDay 2025」で、CEOサム・アルトマン氏は新たな開発キット「Apps SDK」を発表を行ったのです。この記事ではChatGPTの中でサードパーティ製アプリを直接起動・操作できる「Apps SDK」について詳しく紹介します。
Apps SDKの特徴

これまでアプリを使うには、スマホやブラウザを開く必要がありました。しかし、Apps SDKを使うことでChatGPT上で「Canvaでスライドを作って」「Zillowでピッツバーグの物件を探して」「Spotifyでこの曲を再生して」と話しかけるだけで、AIがそれぞれのアプリを内部で起動し、結果を返してくれます。
アルトマン氏は次のように語りました。
「これにより、対話的で、適応的で、個人化された新しい世代のアプリが誕生するだろう。」
OpenAIが掲げる構想は明確です──ChatGPTを「会話するAI」から「操作できるOS」へ進化させることです。
Apps SDKとは:ChatGPTが“アプリを操作できる”仕組み
「Apps SDK」は、ChatGPT内で外部アプリを実行するためのソフトウェア開発キットです。
開発者はこれを使って、自社アプリをChatGPTの中に統合でき、ユーザーはAIとの会話を通じてアプリを操作できるようになります。
さらに、OpenAIは独自の「Agentic Commerce Protocol(ACP)」を導入。これにより、ChatGPT内でアプリを有料提供し、利用料を徴収するアプリ内課金の仕組みも実現しました。つまり、ChatGPTがアプリストア兼実行環境へと変わりつつあるのです。
技術基盤:Anthropic提唱のMCP標準を採用
このApps SDKは、Anthropicが1年前に提唱したオープンソース標準「Model ContextProtocol(MCP)」を基盤としています。MCPは、AIがアプリと安全かつ効率的に通信するための共通仕様で、アプリのデータを呼び出したり、特定の操作を実行したりすることを可能にします。
Apps SDKでは、ChatGPT(GPT-5やoシリーズモデル)が外部アプリから最新データを取得し、常に「ユーザーが何を操作しているか」を把握できるようになっています。開発者は、アプリを以下の形式で表示できます。
- インライン表示(カード/カルーセル形式)
- 全画面表示(マップやスライドなど)
- ピクチャ・イン・ピクチャ(動画やライブ学習など)
これにより、ChatGPTのシンプルなUIを維持しながら、アプリごとのブランド体験や高度なインタラクションを実現できます。

主要パートナーとデモ事例
発表会では、すでに複数のアプリ連携が披露されました。代表的な例は以下のとおりです。
- Coursera:ChatGPT上でログインし、講義動画を再生。AIがリアルタイムで講義内容を要約・解説。
- Canva:テキスト指示(例:「明るい色でポスターを作って」)に基づき、ChatGPTが自動でCanva内テンプレートを編集・生成。
- Zillow:不動産検索をインラインで実行。地図上の物件や価格、間取りをChatGPT内で直接表示。
さらに、Booking.com、Expedia、Figma、Spotifyなどの大手も参加予定のようです。ドキュメント上では、AllTrails、Peloton、OpenTable、Target、Uberなどの名前も確認されています。
このように、教育・旅行・EC・デザイン・音楽など多様な分野のアプリがChatGPT内で動作可能となります。
Apps SDKの実際の利用シーン:会話がアプリ操作に変わる

Apps SDKの魅力は、従来の対話AIを操作AIへと変える点にあります。たとえば以下のような使い方が可能です。
- 「Canvaで『Walk This Wag』というロゴ入りのチラシを作って」
→ ChatGPTがCanvaを呼び出し、フォントや配色まで自動調整したポスター案を生成。 - 「Courseraで機械学習の入門講座を見せて」
→ ChatGPT内で講義動画を再生しながら、「いま話しているアルゴリズムを解説して」と聞けば即要約。 - 「Zillowでピッツバーグのペット可物件を見つけて」
→ マップ付き検索結果がChatGPT上に展開され、「近くにドッグパークはある?」と質問すれば、地図情報を解析して回答。
これらすべてがChatGPTのチャット画面内で完結します。アプリを切り替えることなく、AIが操作を“代行”してくれるのです。
安全性と開発者ガイドライン
OpenAIは、この新たな「アプリエコシステム」に対して厳格な運用基準を設けています。アプリは以下を満たす必要があります。
- 明確で有用な目的を持つこと
- 動作が予測可能かつ安定していること
- 13歳以上の一般ユーザーにも安全であること
- 最小限のデータ取得でプライバシーを尊重すること
すべてのアプリにはプライバシーポリシーが求められ、接続時にはユーザーの同意を取得しなければなりません。また、外部データの変更(投稿・送信など)を行う際は、明示的なユーザー確認が必要です。
OpenAIは、ビジュアル面でも統一基準を設定。ChatGPTの配色・タイポグラフィ・間隔・アイコン体系に準拠しつつ、会話的で直感的、アクセシブルなUIを維持するよう求めています。ブランドロゴや色は許可されますが、宣伝的な表現は禁止されています。
開発者とユーザーに開かれた会話型OS構想
Apps SDKの導入により、ChatGPTは「チャットボット」から「AI OS」へと変わろうとしています。対話インターフェースの中に、コマース、学習、デザイン、旅行などのアプリが統合され、会話がそのまま操作手段になるのです。
開発者にとっては、8億人を超えるChatGPTユーザーへの直接アクセスが可能となり、アプリ発見や収益化の新たなチャンスが生まれます。一方、ユーザーにとっては、「話すだけで使えるアプリ群」というまったく新しい体験が広がります。
「これがChatGPTにおけるアプリの始まりだ。
ユーザーには新しい価値を、開発者には新しい機会をもたらす。」
— OpenAI公式コメントより
今後の課題:データ共有と「GPT Store」の行方
ただし、いくつかの疑問も残ります。第一に、サードパーティアプリとChatGPTがデータをやり取りする際、その情報がOpenAIに共有され、学習に利用されるのかという点。
第二に、以前注目を集めた「GPT Store」(カスタムGPTを販売できる仕組み)は、この新しい「Apps SDK」とどのように統合されるのか、まだ明らかになっていません。
Apps SDK:まとめ

今回のApps SDKの発表は生成AIが「アプリの中で動く」時代から、「アプリそのものになる」時代への転換点と言えるでしょう。ChatGPTが単なる会話ツールではなく、すべてのアプリを動かす対話的OSへと進化する未来が、いよいよ現実味を帯びてきました。