昨今の生成系AIの進化において、「クローズドモデル」と「オープンモデル」が熾烈な競争を繰り広げています。クローズドモデルは大企業が独自に開発・提供しているものを指し、代表的な例としてChat GPTシリーズやClaude、GoogleのGeminiなどが挙げられます。
一方、オープンモデルはソースコードや学習済みモデルを公開しているもので、メタ(Meta)のLlamaシリーズやAlibaba CloudのQwen、そして急速に存在感を増しているDeepSeek V3などが代表例として知られています。
クローズドモデルとオープンモデルの“追いつ追われつ”構図
1年ほど前に先行するクローズドモデルの性能に、時間差をおいてオープンモデルが追いつく・・・ここ数年は、そうした構図が繰り返されてきました。驚くほど高い性能を示して市場を席巻したクローズドモデルが登場した後、しばらくすると似たような性能を示すオープンモデルが公開される、という流れです。
例えば、下の画像(MMLUベンチマーク)では赤線がクローズドモデル、緑線がオープンモデルを表しており、時間の経過とともにオープンモデルがクローズドモデルに追いついている姿が見られます。
<ポイント>
- “1年待てばオープンの最先端モデルが無料で使える”という見方もある
- クローズドモデルは性能面・機能面で依然先行し続ける
- 2025年以降もオープンモデルが追随し、クローズドモデルとの競争は絶えず続く
とはいえ、MMLU(※)のようなタスクでは上限に達してしまい差を測るのが難しくなる(いわゆる“サチる”)ケースも出ています。実際には、まだ他のタスクで差が見られる場合も多く、クローズドモデルがエンタープライズ向け高機能を提供する“逃げ”の状態が続いているのも事実です。
※MMLU(Massive Multitask Language Understanding)は、言語モデルの性能を評価するためのベンチマークテストです。2020年にカリフォルニア大学バークレー校の研究者Dan Hendrycks氏らによって提案されました。
“新技術”を取り込むのはどちらか?
クローズドモデルは大規模な学習リソースを背景に新技術を独自に開発し、先行したパフォーマンスを見せるケースが多くあります。しかし、その技術は必ずしも秘匿され続けるわけではなく、他社やOSSコミュニティが追随し、1年ほど経つと同等の性能を持つオープンモデルが公開される──これが近年のトレンドです。
一方で、オープンモデルでもユニークなアーキテクチャや新手法を取り入れる例が増えています。2024年末にリリースされたDeepSeek V3は、その典型的な事例です。
- 671Bパラメータ、37BだけアクティブなMoEモデル
- 推論時には37Bパラメータしか必要としないため計算コストが抑えられる
- クローズドモデルに匹敵する性能を実現
このように、オープンモデル発で大きなイノベーションを生むケースも少しずつ目立ちはじめました。
価格競争の行方─クラウドでの提供コストに差はあるのか
かつては「オープンモデル=無料」「クローズドモデル=有料」というイメージが強かったものの、実際にはクラウドインフラでデプロイする際のコストはオープンでもクローズドでも大差なくなりつつあるのが現状です。
たとえば、
- オープンモデルのLlama3を、企業がクラウド上で推論APIとして提供する
- OpenAIやAnthropicがAPI提供するクローズドモデルを利用する
この2つを比較したとき、計算リソースのコストを含めたトータルな面で大きく差があるとは言い切れません。価格の優位性を武器にオープンモデルがクローズドモデルを駆逐する、というシナリオは今のところ描きにくくなっています。
これからの展望─2025年以降も続く熾烈な開発競争
2025年以降も、クローズドモデルとオープンモデルの“追いつ追われつ”は続いていくでしょう。各国・各企業の研究チームが参入し、既存のモデルや学習手法を改良・模倣しながら新しい技術を取り入れる動きは止まりません。
- クローズドモデル
- 企業の強固な資金力とトップクラスの研究者を擁し、大規模学習を武器に先行する
- エンタープライズ向けの高い付加価値(セキュリティ、サポート体制、拡張性など)を提供し続ける
- オープンモデル
- OSSコミュニティを背景に素早いイテレーションでクローズドに追随
- 新手法やアーキテクチャを自由に取り入れやすい
- リソースが制限される場合でも巧みな工夫で高性能に迫る
歴史的に見れば、技術の完全独占を維持するのは極めて困難です。クローズドモデル側が秘匿しているノウハウや学習手法が、数年経つと公開される・もしくは第三者が再現するパターンが過去にも繰り返されてきました。いずれオープンモデルもまた、大幅に性能を上げてクローズドモデルに肉薄していくでしょう。
まとめ──ユーザーにとっての最善の選択は?
最終的に、利用者にとっては「クローズドモデルがいいのか、オープンモデルがいいのか」という判断は簡単ではありません。現状、価格面の優劣はほぼなくなりつつあるうえに、性能や拡張性、エコシステム、サポートなど、重視すべきポイントは多岐にわたります。
- クローズドモデル
- 大規模企業が提供するサポート体制と最新機能
- データ管理やセキュリティが厳密で、エンタープライズ用途に安心感がある
- オープンモデル
- ソースコードや学習済みモデルに自由にアクセスし、仕組みを理解しやすい
- コミュニティドリブンで新技術の登場が早い
- 独自にモデルをカスタマイズし、他社への依存を軽減できる
少なくとも、2025年以降も両者の競争は続き、新たなプレイヤーや新技術が次々と生まれることは間違いないでしょう。今後は、それぞれの組織やサービス提供側が「どのモデルをどう活用するのか」によって大きな差がつく時代に突入するのではないでしょうか。