ガードレールなき革新──Hermes 4が問うAIの自由と責任
AI業界は、今や数兆円規模の投資を行う巨大テック企業が主導しています。しかし、その潮流に風穴を開ける存在が登場しました。オープンソースAIを推進するNous Researchが発表した「Hermes 4」は、ChatGPTやClaudeといった商用AIを超える性能を見せつつ、これまでのAIには必須とされてきた“安全のための制約”を大幅に取り払ったモデルです。本記事では、Hermes 4の技術的な革新点、オープンソースの戦略、そして「自由と安全」という難題にどう向き合うのかを解説します。AIの未来を考える上で、避けて通れないテーマに触れることができるでしょう。
Hermes 4の登場とその意義

Nous Researchは、知る人ぞ知るオープンソースAIの旗手です。彼らが発表した「Hermes 4」は、既存の商用大規模言語モデルに匹敵、あるいは凌駕する性能を示しました。特に注目されるのは、ユーザーからのリクエストに対して拒否を最小限にし、ほぼすべてに応答する姿勢です。これまでのChatGPTやClaudeは、安全や倫理を理由に回答を拒否するケースが多くありましたが、Hermes 4は「RefusalBench」という新しい評価指標で57.1%というトップスコアを記録。GPT-4o(17.67%)やClaude Sonnet 4(17%)を大きく上回っています。これは「AIが自由に応答すること」への強烈なメッセージでもあります。
技術的革新──「ハイブリッド推論」と高度な学習基盤
Hermes 4の最大の特徴は「ハイブリッド推論」モードです。これは、ユーザーが高速な即答モードと、段階的に思考を展開する深い推論モードを切り替えられる仕組みです。後者ではAIの内部推論過程が<think>
タグで可視化され、透明性が大幅に向上しました。これはOpenAIの「o1 reasoning」に似ていますが、Hermesはさらに「思考の中身」を公開する点で一歩踏み込んでいます。
さらに、裏側を支えるのはDataForgeとAtroposという独自の訓練基盤です。DataForgeはウィキペディア記事をラップに変換するなど、単純なデータを複雑な指示追従データに変換する能力を持ちます。一方、Atroposは「正解した場合のみフィードバックを与える」仕組みで、数百万規模の高品質データを生成しました。結果として、4050億パラメータのモデルはMATH-500で96.3%、AIME’24数学競技で81.9%という、商用モデルに匹敵する水準を叩き出しています。
小さなスタートアップが巨大企業と渡り合う現実
Hermes 4の開発には192枚のNvidia B200 GPUと約7万時間のGPU計算が必要でした。これは決して小規模ではありませんが、数千億円規模の投資を行うOpenAIやGoogleに比べれば「限られた資源」での挑戦です。Nous Researchは、効率的な学習手法と革新的なデータ生成システムにより、大企業の“スケールによる優位性”を部分的に打ち破りました。
また、Nous Researchは分散型学習基盤「Psyche Network」の開発にも取り組んでいます。これはインターネット接続されたPCをつなぎ、ブロックチェーンで協調学習を行うという野心的な構想です。もし実現すれば、AIの学習は一部企業の専有物ではなく、分散型ネットワークによる共同作業になるかもしれません。
「制約なきAI」が突きつける倫理的ジレンマ
Hermes 4が注目される理由の一つは、「安全のための制約を最小限にする」という哲学です。Nous Researchは「ガードレールが多すぎるとイノベーションを阻害する」と主張し、ユーザーが自由にモデルを操れる“steerable”な設計を選びました。
しかし、この方針はAI安全の議論を避けて通れません。制約を緩和すれば、悪用リスクも増大します。企業が設ける検閲的なガードレールを「不自由」とみるか、「必要悪」とみるか。この二項対立は、今後のAI開発における最も根深い争点になるでしょう。
実際に使える場所とコストの優位性
Hermes 4はオープンソースとしてHugging Faceに公開されており、誰でもモデルをダウンロードして利用できます。さらに、Nous Chatという専用UIや、Luminalなどの推論プロバイダーを通じてAPI利用も可能です。商用モデルに比べればコストは低く、カスタマイズや機密性の高い用途での利用に適しています。特に「拒否されないAI」を求める研究者や開発者にとっては、強力な選択肢になるでしょう。
まとめ──「Yes」というAIがもたらす未来
Hermes 4の登場は、単なる新モデルのリリース以上の意味を持ちます。それは「AIの未来を誰がコントロールすべきか」という根源的な問いを突きつけているのです。大企業が安全と責任を理由にAIを囲い込むのか、それとも小規模なスタートアップやオープンソースコミュニティが“制約なき自由”を広げていくのか。
結論はまだ見えていません。しかし一つ確かなのは、Hermes 4が示したように「資金力だけがAIの未来を決めるわけではない」という事実です。AIの歴史は、常に昨日の“不可能”が今日の“当たり前”になる過程の繰り返しです。今、もっとも危険なのは「AIが答えないこと」ではなく、「AIがすべてに答えること」なのかもしれません。
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