AIが平均的な人間の知能を超え、ほぼゼロコストで知的労働を担う――そんな時代が近づいています。この記事ではAIの学習の仕組みをわかりやすく解説し、私たち人間はこの先AIとどのように関わっていけば良いのかを、お伝えします。
AIが問題を鮮やかに解く一方、人間はなぜ間違う?

平均時速60km/h“不可能問題”から見える未来
全長1キロのレーストラックを2周(合計2キロ)走る際、1周目を時速30キロで走ったとします。ここで、「2周の平均時速を60キロにするためには、2周目を時速何キロで走ればいいのか?」という問いです。
直感的には「1周目が30キロだから、2周目を90キロで走れば(30+90)÷2=平均60キロ」と考えてしまいがち。しかし、実はこれでは平均60キロには届きません。正解は「不可能」。なぜなら、平均速度は単純に(速度の合計)÷(2)で計算するものではなく、実際にかかる時間を考慮する必要があるからです。
回答の解説
1キロを時速30キロで走ると、かかる時間は約2分(正確には1/30時間)。
2キロを“平均時速60キロ”で走るには、合計2分(2/60時間)で走り終えなければなりません。
けれど、1周目ですでに2分使ってしまっているので、2周目をいくら速く走ろうとも「合計2分」より短くすることはできない。
つまり物理的に不可能なのです。もし光の速度で走れたとしても、この条件下では「平均時速60キロ」は達成できません。

X(旧Twitter)では誤答が圧倒的に多かった
この問題がX(旧Twitter)で投票された結果、正解(不可能)が約33.1%、誤答(時速90キロ)と答えた人が54.3%という結果でした。
人間の場合、試験の緊張感もなく直感で「90キロだろう」と考えてしまう人が多いようです。あるいは、単に算数が苦手であったり、時間や速度の関係の問題でつまずきやすいのも理由の一つでしょう。
人は間違うのに、AIは正答する
一方で、GTP4o、Claude 3.5 Sonnet、Gemini 3.5Flashといった複数のAI(大規模言語モデル、LLM)は、この問題に対して正確に「不可能」という答えを返してきました。これにはいくつかの背景が考えられます。
1つは、AIが学習プロセスの中で膨大な算数・数学の問題を取り込んでおり、その中には“平均速度の計算で時間を考慮する”といった問題パターンも含まれている可能性が高いこと。もう1つは、AIが数字や論理展開に対して比較的ブレなく処理を行えるという特性が挙げられます。
すぐには学ばないLLM

ただし、「AIが学習したあと、対話の中で新たな知識を獲得して学習(パラメータの更新)するわけではない」という点も重要です。
現在の多くのLLMは、学習プロセスと推論プロセスを切り離しており、会話を通じて推論エンジン自体が書き換わるわけではありません。
OpenAIのChatGPTなどでは、セッションをまたいでも過去の会話を参照する仕組み(短期記憶のようなもの)は導入されていますが、これは“サーバー側に会話ログを保存し、追加のプロンプトとして与えている”だけにすぎず、ニューラルネットのパラメータに直接影響を及ぼすものではないのです。
AIがすでに“平均的な人間”の知能を上回り始めている
しかし、興味深いのは、AIがすでに多くの場面で“平均的な人間”の知能を上回り始めていることです。そして、その“知能”にかかるコストが限りなくゼロに近づいている点にも注目すべきでしょう。
たとえば、今回のスピード計算のような“ちょっとややこしい問題”でも、人間なら頭をひねるところを、AIは短時間でほとんど無償に近い計算コストで答えを導けます。これはあらゆる知的労働が革新的に変わりつつある兆候でもあります。

AIがその場で自らをアップデートするのは、もう少し先の話
一方で、何か新しい事実を学んで“AIがその場で自らをアップデートする”技術は、まだ確立されていません。
いずれは推論しながら学習するAIが登場するかもしれませんが、現時点のLLMは「人間が会話を通じて成長・学習していく様子」とは全く異なり、あくまでも“学習済みモデルを使用し続ける”のが基本です。
まとめ:AIはビジネスや社会基盤を支える存在へと成長

今後、私たちはこうした“AIの得意領域”と“学習の仕組み”をしっかり理解しながら、活用シーンを適切に見極める必要があります。
人間の直感や経験が光る部分もあれば、AIの演算能力に頼れる部分もある。そのバランスを見定めながら、より豊かな社会を築いていくことが重要ではないでしょうか。
参考)
公式を自力生成する協調学習過程の効果~ジグソー法と協調的な転移課題解決を用いた検討~