TikTok親会社の本気、新たな推論AI Seed-Thinking-v1.5

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ByteDanceのSeed-Thinking-v1.5が切り拓く新境地

「AIの回答精度を高めたい」「より納得できる根拠ある解答が欲しい」――そんな声を背景に、いま世界的に“推論(Reasoning)AI”への注目が高まっています。実は、TikTokを運営するByteDanceがこの分野で驚くべき成果を発表し、大手プレーヤーに肩を並べる勢いを見せているのです。

本記事では、ByteDanceが開発中の新モデル「Seed-Thinking-v1.5」を軸に、最新の推論AI動向や技術の裏側を詳しく解説します。最後まで読めば、AIモデルの技術背景から実務での活用ヒントまで、幅広い視点が得られるはずです。


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背景:激化するReasoning AI競争

推論AIとは、人間のように一歩先を考え、思考過程を自ら検証して回答を導くモデルの総称です。2024年9月のOpenAI「o1」モデルの発表を皮切りに、2025年1月にはDeepSeekの「R1」がリリースされ、世界中のAIコミュニティが「より考える」AIに注目し始めました。これらのモデルは応答に少し時間はかかるものの、回答の根拠をチェーン・オブ・ソート(Chain-of-Thought)と呼ばれる連続的な思考プロセスで検証するため、論理的により妥当性の高い結果を期待できます。

そんななか、中国のWebメディア大手であるByteDance(TikTokの親会社)も、新たな挑戦として「Seed-Thinking-v1.5」を発表。大手企業が競って推論AIをリリースするこの流れは、今後ますます加速すると見られています。


Seed-Thinking-v1.5とは何か?

ByteDanceが発表したSeed-Thinking-v1.5は、科学や数学といったSTEM分野だけでなく、一般的な文章生成までを含む幅広い用途に対応する大規模言語モデル(LLM)です。ポイントは、同社が「より深い推論能力」を強化するための独自設計を導入していること。

現時点では、モデル自体はまだ一般公開されておらず、ライセンス形態も不透明です。完全クローズドになるのか、あるいはオープンソースコミュニティに向けて公開されるのかは分かりません。しかし、開示された論文から、そのアーキテクチャや学習プロセスが従来のモデルとはひと味違うことが分かります。


Mixture-of-Experts (MoE)アーキテクチャの特性

Seed-Thinking-v1.5の大きな特徴は、近年注目を集める「Mixture-of-Experts(MoE)」アーキテクチャを採用している点です。Metaの「Llama 4」やMistralの「Mixtral」なども同様のアプローチをとっています。

MoEは、複数の専門(Expert)モデルを束ねて連携させ、必要に応じて最適なエキスパートに処理を振り分ける仕組みです。これにより、同時に保持する全パラメータ数を抑制しつつ、各領域の強みを活かした効率的な推論を実現します。具体的には、Seed-Thinking-v1.5では総パラメータが2000億(200B)ある中で、推論時には約200億(20B)のパラメータのみを活性化し、必要とされる部分だけを動作させる設計となっています。
このMoE構造は、大容量でありながら計算コストを最適化できるため、モデルの応答速度や推論精度を両立するうえで重要な役割を果たします。


パフォーマンスと各種ベンチマーク

実際の性能を示すエビデンスとして、ByteDanceが提示している主なベンチマークスコアは以下のとおりです。

  • AIME 2024: 86.7%
  • Codeforces(pass@8): 55.0%
  • GPQA(科学系の問題集): 77.3%

これらの結果は、OpenAIの「o3-mini-high」やGoogleの「Gemini 2.5 Pro」といった先行モデルに肉薄するか、場合によっては追い抜く水準にあります。また、AIの万能性を測る指標として注目される「ARC-AGIベンチマーク」においても、人間の多くのタスクを上回るパフォーマンスを示しています。
興味深いのは、ByteDance自身が「BeyondAIME」という新たなベンチマークを用意した点です。AIMEなど従来のテストセットに対してモデルが「丸暗記」しやすくなる問題を避け、本質的な推論力を評価するために作成されたとされています。このBeyondAIMEやCodeforces評価セットは将来的に公開される予定で、研究コミュニティにとっても期待される動きです。


強化学習アプローチと評価

Seed-Thinking-v1.5では、モデル学習の後半に強化学習(RL)を取り入れています。これは単なる教師あり学習(SFT)だけでなく、実際に問題に解答させ、その回答を評価するフィードバックループを回すことで、推論の質を高める手法です。
ByteDanceは独自のActor-Criticフレームワーク「VAPO」や、Policy-Gradientベースの「DAPO」を導入し、長いチェーン・オブ・ソートを伴う出力にも安定的に報酬を与えられるように工夫しています。また、生成された回答が正しいかどうかを判断するために、二段階の仕組みを用意しています。

  1. Seed-Verifier
    ルールベースで生成された解答と参照回答を照合し、数学的に同等かどうかをチェックするシステム。
  2. Seed-Thinking-Verifier
    ステップごとの推論を評価し、回答過程に矛盾がないかを検証する仕組み。より複雑なタスクに対して、単純な正解・不正解だけでなく、推論プロセスの整合性を重視します。

これにより、モデルが形だけの正解を返す「報酬ハッキング」に陥るのを防ぎ、より妥当性の高い解答を学習することが可能になります。


データ戦略と推論性能の向上

ByteDanceが公開した資料によると、監督学習(SFT)段階で利用したデータはおよそ40万サンプル。そのうち約30万がSTEMやロジック、コーディングなどの「検証可能」タスクで、残り10万が「クリエイティブライティング」や「ロールプレイ」などの「検証不可能」タスクでした。
強化学習に使われるデータはさらに厳選され、特にSTEMの問題には高度な数学問題が多数取り入れられています。難易度を段階的にコントロールすることで、モデルが成長しやすい学習カーブを実現。Sudokuや24点パズルなどロジックパズルも含まれ、モデルが推論力を養うのに十分な多様性を確保しています。
こうしたデータセットの品質と多様性は、推論AIの性能を左右するカギとなります。ByteDanceの戦略からは、「厳選した難問と多様なフィードバック」が高品質な回答を導くために不可欠であるという姿勢がうかがえます。


インフラとスケーリング戦略

大規模LLMの開発では、学習時のインフラ設計も成否を分ける重要要素です。ByteDanceは、独自の「HybridFlow」フレームワーク上にRayクラスターを組み合わせ、学習と推論を同じ場所で走らせることでGPUのアイドルタイムを削減しています。
さらに注目すべきは「Streaming Rollout System(SRS)」という仕組みです。これは、生成途中の回答を非同期的に管理しつつ、モデルのバージョン管理を効率化することで、強化学習の反復サイクルを最大3倍に高速化したと報告されています。
メモリ削減のためにFP8精度を導入するなど、ハードウェアリソースを効率よく活用する工夫も見られます。MoEのエキスパート並列化やカーネルの自動チューニングを取り入れ、「ByteCheckpoint」での柔軟なチェックポイント管理で大規模学習の安定性も確保している点は、実務でも大いに参考になるでしょう。


実務的インパクト:エンジニアと意思決定者への提案

Seed-Thinking-v1.5の設計方針から得られる示唆は、単に数学やプログラミング問題だけでなく、多様な実務シーンにおいても有用です。
例えば、以下のような領域で利点が期待できます。

  • 技術リーダー: 大規模言語モデルの学習パイプラインやデータキュレーションを検討する際、強化学習の安定性と報酬設計の重要性を再確認できる。
  • データエンジニア: データ品質や多様性の担保がモデル性能に直結することを再認識し、より厳密なフィルタリングと検証プロセスを導入する手がかりになる。
  • 経営層や意思決定者: 推論AIを顧客対応やレコメンデーションなどに組み込む際、より信頼性の高いモデルを選定する基準として、強化学習の設計や検証メカニズムに注目すべきだと理解できる。

学習インフラの効率化は企業にとっても大きなテーマです。ByteDanceが実装したようなストリーミング型ロールアウトやFP8活用は、クラウドリソースの最適化にも寄与し、コスト削減や開発スピード向上につながる可能性があります。


今後の展望と期待

ByteDanceによるSeed-Thinking-v1.5開発は、推論AIのさらなる高みを目指す動きを象徴しているといえます。リリース時期やライセンス形態が不透明な点はあるものの、同社が公開を予定しているBeyondAIMEなどの新しいベンチマークは、業界全体の研究とイノベーションを牽引する起爆剤となるでしょう。
実際、強力な数学的推論力を身につけたモデルは、創造的な文章生成やロールプレイなどの分野でも成果を上げやすい傾向があります。ByteDanceの取り組みは、個別のドメインに閉じない汎用性の高さを活かしながら、より複雑なタスクや新しい応用分野に挑戦していく可能性を示唆しています。
大手がこぞって「Reasoning AI」を強化する時代、Seed-Thinking-v1.5の登場は、多くの技術リーダーやデータエンジニア、そしてビジネスリーダーにとって見逃せないトピックと言えるでしょう。企業や組織がこの新たな波をどのように活用し、競争力を高めるか。今後の動向に注目が集まります。

参考)Seed-Thinking-v1.5/seed-thinking-v1.5.pdf

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監修者:服部 一馬

フィクスドスター㈱ 代表取締役 / ITコンサルタント / AIビジネス活用アドバイザー

非エンジニアながら、最新のAI技術トレンドに精通し、企業のDX推進やIT活用戦略の策定をサポート。特に経営層や非技術職に向けた「AIのビジネス活用」に関する解説力には定評がある。
「AIはエンジニアだけのものではない。ビジネスにどう活かすかがカギだ」という理念のもと、企業のデジタル変革と競争力強化を支援するプロフェッショナルとして活動中。ビジネスとテクノロジーをつなぐ存在として、最新AI動向の普及と活用支援に力を入れている。

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