Googleの新たな一手「Gemini」の可能性とは?
Generative AI(生成AI)の進化が止まりません。ChatGPTなど各社がしのぎを削るなか、Googleが開発した「Gemini(ジェミニ)」が大きな注目を集めています。従来のテキスト生成AIに加えて、画像・音声・動画など複数の形式(モーダル)を扱う“マルチモーダルAI”、そしてGoogleが持つ多種多様なサービスとの連携が強みです。
今回は、YouTube番組「【すべての人が生成 AI をつかいこなす時代へ】Gemini 超実践術」に登場したGoogle Cloud Japanの中井氏のインタビューをもとに、Geminiの3つの用途別アプローチと今後の可能性を解説します。
GoogleのAI戦略と「Gemini」とは?
Googleは企業ミッションとして「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて利用できるようにする」を掲げており、AI(人工知能)はその実現のための中核技術と位置づけられています。特に生成AI分野では、「AIをすべての人にとって役立つものにする(Making AI helpful for everyone)」というビジョンのもと、最新の大規模言語モデル(LLM)「Gemini」を投入。
◇ Geminiのキーワードは「マルチモーダル」
従来の生成AIはテキスト処理に特化しているものが多いですが、Geminiは文章・画像・音声・動画など複数の情報を理解・生成できます。
- 画像を貼り付けて「この写真に映っている食材を教えて」と質問すれば、野菜や果物を瞬時に判別。
- さらには「この食材を使って、小学生向けの簡単なレシピを考えて」といった具体的な指示まで可能。
◇ 大量の情報を扱える「ロングコンテクスト」
もう1つの特徴が、大量データを一度に扱える能力です。例えば、2時間程度の動画や140万単語(小説数十冊分相当)のテキストでも一度に処理できます。これによって
- 長文ドキュメントの一括要約
- 多くの単語を盛り込んだ学習用ストーリー生成
など、人間の手間を大幅に削減することが可能に。
◇ Googleサービスとの強力連携
検索エンジン(Google Search)や地図(Google Maps)など、Googleには多岐にわたる自社サービス群があります。Geminiはこうしたサービスとシームレスにつながり、「六本木から渋谷まで公共交通機関で何分?」といった質問に対して、自動的にGoogleマップ情報を参照して最適ルートを提示するなど、AIと既存サービスの融合が特徴的です。
3つのGemini―ユーザーごとに最適な利用形態を用意
番組では、Geminiがユーザーの立場(用途)によって大きく3種類に分かれていると紹介されました。
- Gemini App(一般ユーザー向け)
- スマホアプリやWebブラウザで直接利用できるチャット型AI。
- テキストのやり取りだけでなく、画像や音声を貼り付けて対話もOK。
- 例)「旅行先で撮った写真を分析し、名物料理に合うレシピを教えて」など、自由度が非常に高い。
- Gemini for Google Workspace(ビジネスユーザー向け)
- Gmail・Googleドキュメント・Googleスプレッドシート・Googleスライドなどの画面から直接呼び出せる。
- 未読メールの中から急ぎのものを仕分けたり、要約を自動生成したり、返信ドラフトを提案してくれたりする。
- Googleドキュメントの右上にある「Geminiに質問」ボタンをクリックするだけで、文章のサマリを瞬時に表示。管理者権限で機能をONにする必要がある場合も。
- 企業の機密情報は学習データに利用されないため、安心して社内資料の要約やメール対応に活用できる。
- Gemini API on Vertex AI(ITエンジニア向け)
- Google Cloudが提供するAI開発プラットフォーム「Vertex AI」上で利用できる、いわゆる「生のGemini頭脳」。
- システム開発者が自社アプリケーションやサービスにGeminiを組み込み、独自のAI機能を実装可能。
- 動画コンテンツを解析し、場面に応じた最適な広告を自動挿入するシステムなど、“個社オリジナルAI”の開発を支える。
活用事例―ビジネスからメディア・サービス開発まで
◇ Google Workspaceとの統合で“脱・メール地獄”
メールが膨大に届くビジネスパーソンなら、Geminiに「未読メールから緊急性の高いものだけ要約して」と頼むのが非常に有用。返事の文面を丸ごと生成させることもでき、作業効率が大幅にアップ。
◇ 画像・音声・動画解析で、より深い理解へ
単に「映っている物体をタグ付け」するだけでなく、コンテクスト(状況)まで含めて理解可能。
- ビールを飲むシーンを感情・状況ごとに解析→最適なCMを自動マッチング(日本テレビの事例など)。
- 商品レコメンドや検索結果の要約でも、ユーザーの意図や過去の行動履歴を踏まえた“高度なパーソナライズ”が期待される。
◇ セキュリティと間違いへの対策
企業で懸念される「社内情報が学習データに使われるのでは?」という不安は、Gemini for Google Workspaceなら心配不要とGoogleは強調。
またAI特有の“幻覚(誤回答)”は完全になくすことは難しいですが、「人間もミスをする」ことを前提にビジネスプロセス上のダブルチェックを活用するなど、現実的な体制づくりが鍵になります。
未来への展望―「AIはすべての人が使いこなす道具に」
Google Cloud Japan・中井氏によれば、Googleが目指すのは「AIをあらゆる人が使いこなせる世の中」。ただし、使い方は立場によって異なるため、大きく以下の3層に分けられるといいます。
- 一般ユーザー
- Gemini Appを活用し、日常生活を便利にする。料理レシピ、外国語学習、趣味の情報収集など。
- ビジネスユーザー
- Google Workspace上でGeminiがメールやドキュメント作業を支援し、業務効率を高める。
- ITエンジニア/開発者
- 「Vertex AI」に実装されたGemini APIを駆使し、独自のAI搭載サービスや業務システムを構築。
Geminiは一部の先端ユーザーだけが使う技術ではなく、「身近なAIパートナー」として日常から仕事、そして開発までの広い領域で活躍する時代がもうすぐそこまで来ています。未来は“予測”するものではなく、“創り出す”もの。さまざまな立場の人々が、今のうちからGeminiに触れ、可能性を探ることがイノベーションの鍵となるでしょう。
まとめ
- GeminiはGoogleが開発する最先端の生成AIで、文章・画像・動画・音声などを総合的に扱える。
- 3種類のアプローチ(一般向けアプリ、ビジネス向けWorkspace統合、開発者向けVertex AI)を用意し、すべての層をカバー。
- Googleサービスとの連携や大量データ(ロングコンテクスト)の取り扱いにより、より高度なAI活用が期待される。
- 企業利用の際もセキュリティ・プライバシーへの配慮があるほか、幻覚対策としてはビジネスプロセス内のチェックが重要。
「AIをすべての人が使いこなせる時代」は、単なる遠い未来ではなく、すでに幕を開けています。Geminiという新たな選択肢を活用し、個人や企業、さらには社会全体がどのように進化していくのか――今から取り組む意義は大いにあると言えるでしょう。
参考)Gemini公式ページ
【すべての人が生成 AI をつかいこなす時代へ】 Gemini 超実践術 / 日常も、ビジネスも、開発も加速 / Google Workspace / Vertex AI