この記事では、半導体市場全体の需要とNVIDIAのGPU需要について、今後3年間の長期的な展望の分析結果をお伝えします。
半導体市場全体の成長予測(2025~2028年)

2025年から2028年にかけて、世界の半導体市場は堅調な成長が見込まれています。2022年に約6137億ドルだった市場規模は、年平均成長率(CAGR)約8%で拡大し、2028年には約9717億ドルに達すると予測されています。
主要な成長エンジンは引き続き先端技術分野で、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、5G通信などの分野で半導体需要が高まっています。加えて、自動車(電気自動車: EV)や再生可能エネルギー分野でのパワー半導体需要拡大も市場成長に寄与するとされています。
もっとも、2023~2024年には一部分野で在庫調整や需要減退も見られましたが、2025年以降は在庫水準の正常化とともに再び成長軌道に乗り、2025年の半導体業界全体の売上成長率は約10%程度になるとの見方もあります。
AI技術の進化が半導体需要に与える影響

生成AIや大規模言語モデル(LLM)の進化により、AI関連の半導体需要は爆発的に伸びています。2022年末のChatGPT登場以降、企業はAIへの関心を一段と高め、AI処理に必要なGPUや高速メモリ(HBM)、高性能SSD、先端パッケージング技術などへの需要が急増しました。
例えば、エッジ端末でもAI機能を搭載する動きが強まり、AI対応スマートフォンやPCが普及し始めています。IDCの予測では、生成AI対応スマホの出荷台数は2024年に前年比364%増の2億3420万台となり、2025年も73.1%増と急成長する見通しです。 このように幅広い製品でAI機能が求められることで、半導体の需要ベースが従来以上に底上げされています。
ただし急速な需要拡大は供給網への負荷も懸念されています。Bain & Companyの分析によれば、AI対応デバイスの普及で今後PCの買い替えサイクルが短縮する可能性があり、半導体供給網に新たな逼迫を招く恐れがあります。
特にGPUについてはNVIDIA製品に需要が集中しており、競合が追いつくまで供給不足が続くとガートナーも指摘しています。
実際、2024年にはAI用途のGPU不足が生じ、一部では供給待ちの状態が恒常化しました。このため業界では再び**「AI特需」による半導体供給不足**(いわゆる次のチップ不足)への警戒感も出ています 。今後数年間はAI技術の進化が半導体需要全体を押し上げる一方、供給側の対応力が市場動向の鍵を握るでしょう。
新技術(DeepSeek-R1など)による市場変化の可能性

2024年末に中国のスタートアップ企業DeepSeekが発表した**大規模言語モデル「DeepSeek-R1」**は、米国のAI業界に衝撃を与えました。
DeepSeek-R1はOpenAIの先端モデルに匹敵する性能を持ちながら、比較的低性能なAIチップでも効率的に動作・学習可能とされ、その革新的な設計により大規模なAI計算資源なしでも高度なAIを実現できる可能性を示しています。
この「ディープシーク・ショック」により、ソフトバンクが主導する総額5000億ドル規模のAIデータセンター建設計画(Stargateプロジェクト)の必要性さえ疑問視される事態となりました 。つまり、莫大な投資をして巨大データセンターを増設しなくても、アルゴリズムの工夫次第でAIを実現できるのではないか、という議論が浮上したのです。
このような新技術の登場は、市場に二面的な影響を与える可能性があります。一つは、AIの計算効率向上によりハードウェア需要の増加ペースが緩やかになる可能性です。より少ないGPUで済むのであれば、データセンター事業者は従来ほど急激にGPUを買い増す必要がなくなるかもしれません。もう一つは、AIの民主化・普及が進み需要母体が拡大する可能性です。
DeepSeek-R1のようなオープンソースの強力AIが広がれば、スタートアップから大企業まで幅広い主体がAI活用に乗り出し、それに伴って中小規模のデータセンターやエッジデバイス向けの半導体需要が増えることも考えられます。実際、このニュースを受けて米国では「巨大なデータセンター増設競争は本当に必要か」という問いが生じていますが、 同時に各国で独自AI開発競争が加速する兆しもあり、短期的にはAI関連の半導体需要は引き続き高水準で推移するでしょう。
主要競合(AMD、Intel、TSMC)の動向

AMD(Advanced Micro Devices)
データセンター向けGPU「Instinct」シリーズ(MI300Xなど)でAI市場への攻勢を強めています。2024年には最新のMI300シリーズを投入し、2025年には次世代のMI350(CDNA 4アーキテクチャ)も計画されるなど、ロードマップを加速 。
実績としても、AMDの2024年第3四半期のデータセンター事業売上高は前年同期の2倍以上(35億ドル、総売上の52%)に達し、AI需要がAMDの成長を強力に牽引しています。ただし**GPU市場シェアでは依然NVIDIAが約90%と支配的で、AMDは約10%に留まります。
供給面でもNVIDIAの次世代GPU「Blackwell」の品薄が伝えられる中、代替を求める顧客からAMD製品への引き合いが増えるチャンスがあるものの 、 NVIDIAの牙城を崩すには高いハードルが残っています。AMDはCPU(EPYC)との包括提案や、Xilinx由来のFPGA技術も活かしつつ、市場シェア拡大を狙っています。
Intel
CPU最大手のインテルもAI分野で巻き返しを図っています。GPU分野ではデータセンター向け「Ponte Vecchio」ことIntel Data Center GPUや、AIアクセラレータ「Habana Gaudi」シリーズなどを投入しましたが、現状での市場影響力は限定的です。2023年時点でAI向けデータセンターGPUのシェアはごく僅か(数%以下)であり、 短期的にNVIDIA-AMDの寡占体制を崩すには至っていません。
しかしインテルは自社の製造プロセスを強みに、将来的に他社GPUの受託生産(IFS戦略)も視野に入れるなど独自路線を模索しています。
またCPU分野でもAI推論機能(内蔵AIエンジン)を強化した次世代製品を投入する計画で、CPU×GPU×FPGAを統合した包括的ソリューションで競争力を高めようとしています。今後3年間でインテルがどこまでAIハードウェア分野で存在感を示せるか注目されますが、市場の見立てでは2028年でもIntel含むその他企業の合計シェアは数%台との予測もあります。
TSMC(台湾積体電路製造)
半導体製造の世界最大手であり、NVIDIAやAMDの先端GPUもTSMCが製造しています。TSMCはAI需要の追い風を強く受けており、2024年の売上高は前年比33.9%増と過去最高を記録しました。 AI向け先端チップの大量受注により、2025年の売上も前年から24~26%増と、業界平均(約10%成長)を大きく上回る見通しを示しています 。
また、2024~2029年の年平均成長率も20%近辺を維持するとしており、スマートフォンやHPC(高性能コンピューティング)向け需要の増加に対応する計画です。
一方でTSMCにとって最大のリスクは地政学的要因です。同社は米国や日本への生産分散投資も進めていますが、先端ノードの主力は台湾に集中しており、世界の先端半導体供給網は依然としてTSMCに大きく依存しています。
競合のサムスンも3nm世代以降の技術開発に注力し、インテルも2025~2026年にかけて外部顧客向け先端プロセス(18Aなど)を提供予定で、先端製造技術を巡る競争も激化が予想されます。もっとも短期的にはTSMCの技術・量産体制が群を抜いており、今後3年間の業界動向を占う上でTSMCの供給能力と戦略は極めて重要です。
NVIDIAのGPU需要の推移予測(データセンター・ゲーミング・エンタープライズ向け)

NVIDIAのGPU需要は、主にデータセンター向けとゲーミング向けの二大市場で構成され、加えてエンタープライズ(企業向け)用途が専門分野で支えています。今後3年間のセグメント別動向は次のとおりです。
データセンター向けGPU
圧倒的な需要拡大が見込まれる分野です。生成AIブームによりクラウド事業者や大企業はAI計算能力を競って増強しており、NVIDIAのデータセンター向けGPU(A100/H100シリーズなど)は記録的な売上を計上しています。
2024年初頭にはNVIDIAの売上の実に87%がデータセンター関連という四半期もあり 、もはや同社の中核ビジネスとなりました。今後もFacebookやGoogle、MicrosoftといったハイパースケーラーによるAIインフラ投資が続くほか、金融・医療・製造業など幅広い分野でAI導入が進むため、高性能GPUの需要は中長期的にも拡大が続くでしょう。
市場予測ではデータセンターGPU市場規模が2023年の約148億ドルから2028年には630億ドル規模へ年率34.6%成長するとされ、 NVIDIA自身も2025年にAI需要が更に倍増するとの楽観的見通しを示しています。またAMDのCEOリサ・スー氏は2028年にAIデータセンターGPU市場が5000億ドル規模に達しうるとの大胆な予測さえ述べており、それだけこの分野には大きな成長余地があるという認識です。
NVIDIAは2024~2025年に次世代GPUアーキテクチャ「Blackwell」を投入予定で、性能向上と供給拡大によって爆発的需要に応えていく戦略です。ただし需要過熱による供給遅延の懸念もあるため、競合他社の製品(AMDのInstinctや各種AIチップ)との競争動向も影響するでしょう。

ゲーミング向けGPU
PCゲームやコンソール向けのグラフィックス需要は、過去数年の仮想通貨バブルとパンデミック特需を経て現在は安定成長局面にあります。NVIDIAのゲーム部門売上は直近では四半期あたり約29億ドルで横這い推移していますが、前年同期比では+15%と回復基調にあります。
今後は新世代GPUの投入やゲームタイトルの高品質化(レイトレーシングや高解像度化の進展)により、ゲーミング用途GPUの買い替え需要が徐々に促進される見込みです。特に2025年前後にはNVIDIAの次世代GeForce(RTX5000番台仮称)やAMDのRadeon新シリーズの発売が予想され、ハイエンドゲーマーやクリエイター向け需要が喚起されるでしょう。
ただし、市場全体としてはゲーミングGPUは成熟期にあり成長率はデータセンター向けほど高くはありません。安価なノートPCや据置型ゲーム機(いずれもAMDのAPUが多い)との競合、クラウドゲームの台頭など構造変化もあるため、NVIDIAにとってゲーミング分野は堅調ながら緩やかな成長が続くと想定されます。
エンタープライズ/プロ向けGPU
企業の研究開発、プロフェッショナルな3DCG制作、AI推論用サーバ、仮想デスクトップなど専門用途に使われるGPU需要も着実に増加が見込まれます。
NVIDIAはQuadroシリーズ(現RTX Axxxxシリーズ)などプロ向けGPUや、企業サーバ向けのAI推論アクセラレータ(例えば推論専用のInferenciaシリーズ※架空)など製品ポートフォリオを持ち、これらはデータセンター大型案件ほど目立ちませんが底堅い需要があります。
とくに生成AIの企業導入が進むにつれ、「オンプレミスで中規模なAIクラスタを構築したい」という需要が増えつつあり、NVIDIAも中小規模企業向けにGPUクラスタ用アプライアンスを提供するなど戦略を広げています。
今後3年では、大企業は引き続きクラウド上の大規模GPUリソースを活用する一方、一部の企業や政府機関ではセキュリティやプライバシー確保のため自前GPUインフラを持つ動きが広がる可能性があります。この流れはエンタープライズ向けGPU需要を下支えするでしょう。
またワークステーション向けのグラフィックス需要も、AR/VRやメタバース関連の制作・シミュレーション用途で増える可能性があります。総じて、エンタープライズ分野のGPU需要は緩やかな右肩上がりで、データセンター/クラウド向けほどの爆発力はないものの、安定した成長が続く見通しです。
中国・米国の輸出規制など地政学的要因の影響

半導体市場において地政学的リスクも無視できません。米中対立の激化により、アメリカは先端半導体や製造装置の中国への輸出を厳しく制限しています。とくに高度なAIに使われる半導体(NVIDIAの先端GPUなど)は中国への販売が事実上禁止されており、NVIDIAは性能を落とした中国専用モデル(例:A800やH800)で限定的に出荷する状況です。
一方、中国も対抗措置として半導体材料となるガリウムやゲルマニウムなど重要鉱物の輸出規制を打ち出しました。2023年以降、米中双方で制裁と報復が繰り返されており、毎月のように新たな規制が追加される状態が続いています。この貿易摩擦は今後も沈静化の兆しはなく、2025年の米国大統領選後も政権の党派を問わず対中強硬策が維持・強化される可能性が高いと見られています。
中国市場における先端半導体の供給不足
こうした規制の影響で、短期的には中国市場における先端半導体の供給不足が生じています。中国の大手テック企業やクラウド企業は、高性能GPU確保のために在庫の囲い込みや代替調達(AMDや自国産チップの活用)を進めています。また中国国内では独自のGPU開発(例:BirenやAlibaba平頭哥のAIチップなど)や、半導体自給率向上の国家プロジェクトが加速しています。
米国企業側も、中国向け売上減を他地域の需要で補う必要に迫られています。NVIDIAは2022~2023年に中国からの売上が全体の20%以上を占めていただけに、規制強化は同社にとってリスクですが、幸いにも現在の世界的なAI需要過多が他地域販売で相殺している状況です。
中長期的には、地政学リスクはサプライチェーン再編や市場分断を招き、各国・各企業が調達先と販路を多角化する流れが強まるでしょう。例えば、米国は自国内や同盟国での半導体生産(CHIPS法による工場誘致)を推進し、中国も装置国産化や他アジア・中東諸国との技術協力を模索しています。台湾有事など極端なリスクシナリオも取り沙汰されますが、その場合の影響は計り知れず、業界としても最悪の事態を避けるため各種リスクヘッジ策が講じられています。
AIインフラ投資の今後の傾向と需要変化

AIブームに伴い、世界的にAIインフラへの巨額投資が進行中です。クラウド大手各社のデータセンター増設競争に加え、ソフトバンクGやOpenAIが提唱するような数千億ドル規模のプロジェクトも現実味を帯びています。実際、2024年には米国各地に最先端AIデータセンターを建設する総額5000億ドル規模の「Stargate」計画が発表されました。
この計画は「AI版アポロ計画」とも称される野心的なもので、人類史上最大級のインフラ投資になる可能性があります。 たとえ一企業でなくとも、各国政府・企業連合がそれに近い規模でAI関連インフラに投資する動きは今後も続くでしょう。
足元では、2024年のデータセンター向け資本支出が前年比36%増との試算があり、各社がAI計算資源の拡充にしのぎを削っていることが伺えます。この傾向は2025年以降も継続すると見られ、仮に現在世代のGPU需要が2026年までに倍増するようなシナリオでは、サプライヤー側も30%以上の供給拡大を迫られる計算です。
NVIDIAやTSMCはこの需要に応えるべく設備投資を増やし、生産能力拡張に努めています。特にTSMCは先端パッケージ基板の不足に対応するため関連メーカーと協業強化し、NVIDIAもサプライチェーン上流の確保に動いています。
最適化と効率化の波が訪れる可能性
もっとも、長期的視点ではAIインフラ投資にも最適化と効率化の波が訪れる可能性があります。前述のDeepSeek-R1のように、ソフトウェア面の革新でハードウェア資源あたりのAI性能が飛躍的に向上すれば、闇雲にGPUを積み増すだけではなく限られたリソースを賢く使う方向にシフトするでしょう。
また、持続可能性の観点からも、データセンターの省電力化や冷却効率向上は大きな課題です。各社は液浸冷却や再生エネルギー活用などに投資しつつ、**性能/W(ワット)**を最大化する次世代半導体技術の開発を進めています。今後3年間は需要に追いつくための量的拡大が中心となりますが、その先を見据えて質的な投資(効率化投資)への比重も高まっていくでしょう。
結論: 今後3年間の展望まとめ

全体として、今後3年間(2025~2028年)の半導体市場はAIを筆頭とする先端分野が成長を牽引し、堅調な拡大が続く見通しです。市場規模は年率ひと桁台後半~10%前後で成長し、2020年代後半には世界で1兆ドル規模に迫る勢いです。
一方、成長の恩恵が偏在する点には留意が必要で、データセンター向けや車載向けは好調な反面、従来型のPC/スマホ向けは成熟し低成長になるなどセグメント間格差が広がる可能性があります。また地政学リスクや供給制約といった不確実要因も内包しており、特に米中対立の行方や台湾情勢は市場に大きな影を落とし得ます。
NVIDIAのGPU需要に関して言えば、AIインフラ需要の爆発によりデータセンター向けが向こう数年は空前の伸びを示すでしょう。クラウドのみならずあらゆる産業でAI活用が進むため、NVIDIAにとって追い風が続く見込みです。ゲーミング向けも安定成長を維持し、企業向け用途も堅調に増加することで、NVIDIAのGPU事業全体としては高止まりした需要環境が続くと予想されます。競合他社も巻き返しを図りますが、少なくとも2028年頃まではNVIDIAがAI向けGPU市場を大きくリードするとの見方が有力です。