WordPress開発―新ツール「Telex」の可能性と課題
WordPressでのWeb制作がもっと簡単になったらいいのに——そう感じたことはありませんか?プラグインやテーマのカスタマイズ、ブロック作成など、専門知識が求められる場面で「自分にもできるのだろうか」と不安になる方も多いはずです。そんな悩みを解決するかもしれない革新的なAIツール「Telex」がWordPressから登場しました。
本記事では、Telexの概要や仕組み、実際の使い方、現時点での課題、そしてWordPressのAI戦略について詳しく解説します。AIの進化がWeb制作にもたらす変化や、今後の可能性を知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
WordPressが発表した実験的AIツール「Telex」とは

2025年9月、Web制作プラットフォームとして世界中で利用されているWordPressが、開発者向けの新しいAIツール「Telex(テレックス)」を発表しました。WordPress共同創業者でありAutomattic CEOのマット・マレンウェッグ氏は、このツールを「V0やLovableのWordPress版」と表現しています。V0やLovableとは、AIにプロンプトを入力するだけでソフトウェアやUIコンポーネントを自動生成できる“バイブコーディング”サービスのこと。Telexも同様に、ユーザーがテキストで指示を出すだけで、WordPressの「Gutenbergブロック」(Webページを構成するテキストや画像、カラムなどの単位)を自動生成できるのが大きな特徴です。
このTelexは、まだ「実験的」と位置づけられており、専用のWebサイト(telex.automattic.ai)から利用できます。ユーザーは作成したいブロックの内容をプロンプトとして入力すると、その要素が含まれたプラグインとして.zipファイルでダウンロードできる仕組みです。このファイルは、WordPress本体や、ブラウザ上でWordPressを仮想体験できる「WordPress Playground」にインストールして実際に動作を確かめることができます。従来はコーディングスキルが必要だったカスタムブロック作成が、AIの力で誰でも手軽に行える時代が近づいています。
Telexの使い方と現状の課題――実際に何ができるのか?
Telexの最大の魅力は、プログラミング知識がなくても、テキスト入力だけでWordPress用のカスタムブロックを“自動生成”できる点です。たとえば「簡単なマーケティング用アニメーションブロックを作りたい」と入力すれば、AIがコードを書き起こし、ダウンロード可能なプラグインとしてまとめてくれます。これにより、従来は開発会社やフリーランスに外注していたような作業を、エンドユーザー自身が行える可能性が広がります。
しかし、現時点ではまだ「実験段階」であり、テスターからは「生成されたプラグインがうまく動かない」「修正が必要」「希望通りのものができない」といった声も多く聞かれます。マレンウェッグ氏自身も、現状のTelexはあくまでプロトタイプであり、今後の精度向上やバグ修正が不可欠だと強調しています。とはいえ、AIによる自動生成の可能性そのものには強い期待を寄せており、「今はまだ不完全だが、将来的にはWeb制作のハードルを大幅に下げる」と語っています。
補足:ChatGPTでもプラグラインは作れる
WordPressはChatGPTなどでも作ることができます。

例えば、「簡単な計算ができる、WordPressのプラグインを作って」と依頼すると、ダウンロードできるZipファイルを作ってくれて、すぐにWordPressの管理画面で、プラグインとしてインストールすることができます。

WordPressが描くAI戦略と「民主化されたパブリッシング」の実現

なぜWordPressはAIにこれほど注力するのでしょうか。その背景には、同社の長年のミッション「民主化されたパブリッシング」があります。WordPressは、コーディング知識の有無や言語、経済的な制約を超えて、誰もが自由にWebサイトを構築・発信できる環境を目指してきました。AI、特に生成AIの活用は、その理念をさらに推し進める強力な手段だといえます。
2025年初頭、WordPressは「AIチーム」を設置し、中長期的なAI製品開発ビジョンの策定に着手しました。TelexのようなプロンプトAIツールは、従来は専門家でなければできなかったカスタマイズや新機能の追加を、誰でも手軽に、しかも低コストで実現できる道を拓きます。さらに、こうしたツールがオープンソースで提供されることで、ユーザー自身が成果物の権利を持ち、自由に活用・改変できる点も、他のAIサービスと一線を画しています。
新たなAIツールとコミュニティへの影響
Telexの発表と並行して、WordPressは他にもAI関連の実験を進めています。たとえば、開発者イベント「Contributor Day」では、わずか1~2時間で作られたという簡易的な「WordPressヘルプアシスタント」AIツールも披露されました。これは、ブラウザ上でWordPressの使い方をアシストしてくれるもので、初心者の学習効率を大きく向上させる可能性を秘めています。
また、マレンウェッグ氏が個人的に愛用しているAIブラウザ「Perplexity’s Comet」も話題に。将来的には、このようなAIブラウザ内からWordPressにアクセスし、編集や管理ができるようになるかもしれません。これにより、従来の管理画面に縛られない新しいユーザー体験や、複数サービスを横断したワークフローが生まれることが期待されます。WordPressのオープンなコミュニティ文化は、こうした新技術の受容・発展にも大きな強みとなるでしょう。
AI時代のWeb制作における課題と今後の展望
AIによる自動生成が進む一方で、「AIは本当にユーザーの意図を理解してくれるのか」「品質やセキュリティは大丈夫か」といった懸念も根強く存在します。実際、Telexの初期バージョンでも期待通りに動作しないケースが多く報告されています。これは、プロンプトの精度やAIモデルの訓練データ、セキュリティチェックなど、さまざまな課題が絡み合っているためです。
また、AIで生成されたコードの著作権やライセンス、プラグインの脆弱性、長期的なメンテナンス責任など、運用面での新たな議論も必要になるでしょう。特にWordPressのようなオープンソースコミュニティでは、透明性やガバナンスの観点も今後の重要なテーマとなります。それでも、「AIはWeb制作の未来を根本から変える種を持っている」とマレンウェッグ氏は強調し、コミュニティ全体で課題を乗り越えていく姿勢を示しています。
新しい制作体験への期待とユーザーにもたらすもの
TelexのようなAIツールは、単なる効率化にとどまらず、「Web制作の楽しさ」や「自己表現の自由」を飛躍的に拡張するポテンシャルがあります。誰もが自分のアイデアを形にし、世界中に発信できる時代——その実現に向けて、WordPressは着実に歩みを進めています。今後、AIの性能向上やユーザーインターフェースの洗練が進めば、エンジニアだけでなく、あらゆる職種・世代の人々がWeb制作の現場で新しい役割を担えるようになるでしょう。
また、AIツールの民主的な設計方針は、グローバルな情報格差の縮小にも寄与します。自国語でプロンプトを入力し、ローカルニーズに合ったコンテンツをすばやく制作できるようになれば、Webの多様性はさらに広がるはずです。今はまだ「実験的」とされるTelexですが、その進化の過程で得られる知見やユーザーからのフィードバックが、次世代のWeb制作環境を形づくっていくことは間違いありません。
—
新たに登場したTelexは、AIによるWeb制作自動化の第一歩であり、WordPressの理念「誰もが自由に情報発信できる世界」への挑戦でもあります。現状では課題も多いですが、AI技術の進化とコミュニティの協力によって、より多様で使いやすいWeb制作環境が実現されていくでしょう。今後もWordPressのAI戦略から目が離せません。