オープンソース×高品質音声──Diaが切り開く生成AIビジネスの新戦略
生成AIを扱うビジネスパーソンにとって「音声合成の品質と自由度」は顧客体験を左右する重要指標です。本稿では、わずかエンジニア2名のスタートアップ Nari Labs が公開したオープンソースTTSモデル Dia(1.6 Bパラメータ) を詳解します。
ElevenLabsやGoogle NotebookLMの人気機能を凌駕するという触れ込みは本当なのか。無償で商用利用できるApache 2.0ライセンスのインパクト、VRAM10 GBで動く手軽さ、そして非言語サウンドまで自然に挿入する革新性——読み終えた頃には、あなたのプロダクトロードマップが書き換わっているかもしれません。
わずか2人で生まれたDiaとは何者か

Nari Labsはフルタイム1名・パートタイム1名という超小規模体制ながら、Google TPU Research Cloudの支援を受けてDiaを訓練しました。パラメータ数は1.6 B、推論エンジンはPyTorch 2.0+CUDA 12.6。特徴は「一度のパスで対話全体を生成」する点にあります。音声出力は最大48 kHz、トークン生成速度はA4000級GPUで約40 tokens/sと報告されており、リアルタイム配信用途にも耐え得る性能です。コードと重みはGitHubとHugging Faceで一般公開され、誰でもローカル推論やカスタム学習が可能になっています。
ElevenLabsやNotebookLMに匹敵する実力
共同創業者のToby Kim氏は「DiaはNotebookLMのポッドキャスト生成と並びつつ、ElevenLabs Studioを上回る」と自信を示しています。実際に公開された比較音源では、(laughs)や(clears throat)といったタグを正確に音声化し、競合がテキスト置換で“ハハ”と読んでしまう箇所を自然な笑い声に変換。感情の起伏を含む緊急通報スクリプトでも、抑揚・間合いともに滑らかで、平坦になりがちな他社モデルとの差が際立ちました。ラップ歌詞のリズム保持テストでもテンポを崩さず歌い上げ、Dia特有の“対話演出力”が証明されています。
感情タグと非言語サウンド——Diaだけの表現力
Diaはスクリプト中に[S1]、[S2]で話者指定し、(laughs)(coughs)などの非言語キューを挿入するだけで、多重話者と効果音を混在させた会話を一括生成します。しかもSeed固定やAudio Promptにより声質をコントロールでき、15 秒程度の音声サンプルを渡すと声色・滑舌・ブレス音まで継承。従来「複数APIを呼び出してミキシング」していた工程が、単一推論で完結するため、実装コストとレイテンシを同時に削減できます。今後は日本語対応や多言語化も検討中とのことで、国際市場での採用ハードルも低下する見込みです。
導入は10 GB VRAMでOK、オープンソースの強み
フルモデル動作に必要なVRAMは約10 GB。RTX 3060(12 GB)クラスの民生GPUでもローカル運用ができます。また「8bit量子化版」とCPU対応ビルドも開発中で、クラウドGPUコストを抑えたいスタートアップに朗報です。Apache 2.0ライセンスのため、商用アプリへの組み込み・モデル改変・再配布が自由。ElevenLabs等の月額従量課金型APIに比べ、ユーザー数やリクエスト数が読みにくいプロジェクトでもコスト見通しが容易になります。
ビジネス活用と倫理ガイドライン
想定ユースケースは多岐にわたります。まずはコンテンツ制作──ポッドキャストやドラマの自動音声化、動画ナレーションの多声化など。次に支援技術──失語症患者向け会話補助や、多言語カスタマーサポートの“声のローカライズ”。さらにゲーム開発ではNPCの動的会話生成に組み込むことで、シナリオ量産と没入感を両立できます。ただしNari Labsは、人物なりすまし・偽情報拡散・違法行為への利用を禁止。ディープフェイク規制が進む中、開発者には透かしや本人同意プロセスの実装が求められる点を忘れてはいけません。
今後のロードマップと業界インパクト
Nari LabsはDiscordコミュニティで外部コントリビュータを募集し、量子化モデルやWebUI、Chrome拡張、さらには一般ユーザー向け「Dia Consumer」を夏までにβ公開すると公言しています。オープンウェイトの高表現TTSが普及すれば、「音声はクラウドAPIに外注」が常識だった開発フローが、自前推論/オンデバイス処理へ一気にシフトする可能性があります。GPU搭載スマホや車載エッジデバイスでリアルタイム生成が当たり前になれば、対話型AIのUXそのものが変わるでしょう。ElevenLabsやOpenAI gpt-4o-mini-ttsが抱えるライセンスとコストの壁を、Diaがどこまで切り崩せるか——今後半年は目が離せません。
結び
生成AIの競争軸は「文字→音声」でも急速にオープン化が進んでいます。Nari Labs Diaは、小規模チームでもトップクラスの音声体験を実装できることを証明しました。あなたのサービスが「声」を必要としているなら、まずローカルでDiaを動かし、その可能性と責任を体感してみてはいかがでしょうか。
