生成AIの導入が企業の現場で進む一方、最大の障壁として浮上しているのが“情報漏洩”のリスクです。とくに、機密性の高いデータや顧客情報を扱う業務においては、「ChatGPTやClaudeに入力した内容が外部に学習されてしまうのでは?」という不安が拭えません。
本記事では、企業が生成AIを安全に運用するために押さえておきたいセキュリティ対策の10のチェックポイントを解説します。あわせて、社内完結型AI(オンプレ/閉域構成)の選択肢や導入のコツも紹介します。
生成AIが抱える情報漏洩リスクとは?

多くの 個人向け/無料プラン の生成AIツールでは、入力内容がモデル改善目的で再利用される設定が既定でオンになっています。一方、企業向けプラン(ChatGPT Team/Enterprise や Claude Enterprise など)では、入力が学習非対象になっていたり、保持期間を短縮・カスタムできるオプションが提供され始めています。導入時は利用プラン別のデータ取り扱い方針を確認し、自社のリスク許容度に合わせたプランを選択することが不可欠です。
情報漏洩の典型的な例
- 顧客の氏名やメールアドレスを含む文章をプロンプトに入力
- 未公開の事業戦略を要約させる目的でAIに送信
- 社内で共有された評価コメントを文書化のために投入
これらはすべて、入力データが外部サーバー経由で第三者の手に渡るリスクをはらんでいます。
✅ ポイント:セキュリティ対策は「入力前」が9割。誤入力を防ぐ仕組みとルール作りが最優先です。
情報漏洩を防ぐ10のチェックポイント

生成AIを安全に活用するために、次の10項目を自社の体制に照らし合わせて確認しましょう。
チェック1:入力禁止情報のガイドラインはあるか?
- 氏名/住所/社員番号などの個人情報
- 財務データや顧客契約内容
- 未公開の製品情報・ソースコードなど
明文化+社内ポータル等で周知を。
チェック2:ツールの「データ利用ポリシー」を確認しているか?
- ChatGPT Plus/Free:チャット履歴 OFF(Temporary Chat)でも 最大30日間は悪用検知目的で保管されますが、モデル学習には使用されません。
- ChatGPT Team/Enterprise:入力は学習非対象。保持期間はワークスペース管理者が 0〜30 日(既定30 日)で設定でき、設定日数を経過すると自動削除されます。
- Claude:入力はデフォルトで学習非対象。標準保持 30 日(削除操作で即時消去可)。ただしポリシー違反と判定された入力は悪用分析のため最大 2 年間保管される場合があります。
- Gemini(参考):Apps Activity を OFF にしても 最大72時間保管。
利用規約とデータ保持期間は定期的に確認・更新しましょう。
チェック3:社内の使用ツールを制限・管理しているか?
- 許可ツール一覧を定義(例:ChatGPT Team/Microsoft Copilotなど)
- フリーツールやブラウザ拡張は利用制限を行う
- Microsoft 365 Copilot はテナント境界内で動作するため、プロンプトと応答はモデル学習に使用されない
ブラウザレベルのポリシー制御も有効です。
チェック4:プロンプト入力時に「確認画面」が挟まれているか?
- RAGツールや社内アプリで「内容に個人情報は含まれていませんか?」と確認する画面を表示
- 誤入力の抑止につながるチェック機構の導入を推奨
チェック5:利用ログを取得・分析できる仕組みがあるか?
- 誰が、いつ、どのような内容をAIに入力したかを記録
- ログは少なくとも30日以上保存/ダッシュボードで可視化可能に

チェック6:アクセス権限と役割管理を行っているか?
- 部門や役職ごとに利用可能なモデル・プロンプトを制限
- APIキーの管理は必ずIAM(ID&アクセス管理)で実施
チェック7:生成結果の誤用を防ぐチェック体制があるか?
- 生成文書がそのまま社外へ公開されないよう、人の目を通す運用を
- 例:法務文書、契約文、報道資料など
チェック8:生成AI利用に関する教育・研修を実施しているか?
- 新入社員/中途/外部パートナー向けにポリシーとリスクを解説
- 誤用・誤送信の事例をベースにしたケーススタディ型研修がおすすめ
チェック9:自社データとの連携方法を選定しているか?
- 閉域構成でのベクトルDB(RAG)連携を基本とする
- データ分類(公開/社内/秘)とアクセスレベルの設計を実施
チェック10:万が一に備えたインシデント対応フローがあるか?
- 誤送信/漏洩発覚時の対応フローを事前策定
- ベンダー連絡・内部通報・顧客対応のタイムラインを整備しておく
社内完結型AIとは?安全性を高める選択肢

外部APIに依存しない構成として注目されているのが、「社内完結型生成AI」です。以下のような構成が代表的です。
導入例:ローカルLLM+ベクトルDB構成
- モデル例:Llama 3、Mistral、Nousなど
- ベクトルDB:Weaviate、Qdrant、Milvusなど
- UI:Langflow/Flowise で業務フロー化
- 全体:自社ネットワーク内/VPN/ゼロトラスト環境で運用
✅ 機密性の高い業務(法務/人事/開発)ほど、社内完結型AIの導入検討が求められます。
企業に最適なAI構成を見極める3ステップ

ステップ1:ユースケースごとに「情報機密度」を分類する
- レベル1:公開情報(マーケティング/営業資料)→ 商用AI可
- レベル2:社内利用情報(日報/FAQ)→ 商用 or 閉域AI
- レベル3:機密情報(顧客データ/内部文書)→ ローカルAI推奨
ステップ2:ツール選定と利用ルールを明文化する
- 使用可能なAIツール一覧
- 入力禁止データ一覧
- ログ保存/責任者の定義
ステップ3:PoCから小さく始めて、段階的に拡張する
- 最初は1部門・1業務から(例:社内FAQ生成)
- スモールPoCで成果・課題を可視化
- 全社展開時には情報システム部門との連携が不可欠
まとめ:AIの進化にセキュリティ対応を追いつかせるために

生成AIは利便性と効率性の面で大きな可能性を秘めています。しかしその一方で情報が意図せず流出してしまうリスクが常に付きまとう技術でもあります。だからこそ、IT管理者には次の3点が求められます。
- 入力前の対策重視(人の意識+システム制御)
- 社内ルール・教育体制の整備と周知徹底
- 長期的には社内完結型AIを視野に入れた構成選定
セキュリティを犠牲にしない生成AI活用こそが、今後の企業競争力を左右します。今のうちから「何を入力してよいか/いけないか」「どこで処理するのか」を全社で共有し、安全な運用体制を構築していきましょう。