SlackやGoogleを横断するエージェント構築の最前線
Twitterの共同創業者であるジャック・ドーシー氏が、新しい“鳥”の名を冠したオープンソースAIエージェント構築フレームワーク「Goose」を発表しました。すでにXへと名称が変わったTwitterのイメージを覆す意外な展開に、「自分にも関係があるの?」と疑問に感じる方もいるでしょう。
本記事を読むと、Gooseがもたらす開発効率化やビジネス活用のヒントを得られるだけでなく、マルチプラットフォーム間のデータ連携をシームレスに実現する仕組みを理解できます。さらに、オープンソースで誰でも使えるという点から、個人開発者やスタートアップ企業、大規模企業といった多様なユーザー層に応える柔軟性も魅力。そんなGooseの登場背景や技術的な仕組みを知ることで、AIエージェントの未来と新たなビジネスチャンスに目を向けるきっかけになるでしょう。
Jack Dorseyが手がける新プロジェクト「Goose」とは
Twitterの共同創業者として知られるジャック・ドーシー氏は、モバイル送金アプリ「Cash App」や音楽ストリーミングサービス「Tidal」などを運営するブロック(Block)のCEOも務めています。今回、Blockが新たに公開した「Goose」は、さまざまな大規模言語モデル(LLM)を使ってAIエージェントを構築できるオープンソース・フレームワークです。
特徴的なのは、GoogleやOpenAI、Anthropicといった複数ベンダーのモデルに対応できるだけでなく、ユーザーが独自開発したモデルや研究用モデルにも柔軟に対応できる点にあります。まさに「どんなAIモデルでも使える」シンプルなフレームワークを目指しているのです。
“鳥”に込められた意図?
ドーシー氏と“鳥”といえばTwitterの青い鳥を連想しますが、Twitterが「X」に改名されてからも、彼の新プロジェクトには「Goose(ガチョウ)」という鳥の名が付与されました。これは単なるネーミング上のユーモアだけでなく、複数のツールやプラットフォームを“渡り鳥”のように自由に行き来できるAIエージェントの姿をイメージしているとも受け取れます。
Gooseがもたらすメリット:エンジニアリングからビジネスへ
1. コード自動生成・編集と開発効率化
Gooseは、エンジニアが日々行う煩雑な作業を代行するエージェントを簡単に作成できる点が大きな魅力です。たとえば、以下のようなユースケースがすでに示されています。
- EmberからReact、RubyからKotlinへのコード移行
- 新しい言語のコードベース調査
- 依存性の注入方法(フィールドベースからコンストラクタベースなど)の大規模変更
- ビルドコマンドのパフォーマンス計測・最適化
- テストコード自動生成
これらはエンジニアが“やりたくないけれど必要な作業”と感じる場面が多いでしょう。Gooseによって多くの時間が節約されるうえ、バグ発生リスクの低減や生産性の向上が期待できます。
2. 複数ツール・プラットフォーム連携
Gooseが目指すのは、単なるコード自動化だけではありません。VP of Data & AI Platform Engineeringであるジャッキー・ブロサマー(Jackie Brosamer)氏によれば、GooseはSlackやGoogle Driveなど、異なるベンダーのさまざまなツールを横断的に扱えるAIエージェントの構築を支援します。
たとえば、ある日の会議の議事録を自動で要約してSlackに投稿する、Google Drive上の資料を検索して関連タスクをGitHubのIssueに反映させる、といった“ツール間のつなぎ役”をAIに任せられるようになります。
3. クリエイティブ分野やビジネスへの展開
初期の用途はソフトウェア開発支援が中心ですが、音楽配信サービスも手掛けるBlockが関与していることを考えると、将来的にはクリエイティブ制作やコマース、接客サービスなどへの応用も期待されます。AIエージェントが音楽制作工程のアイデア出しを支援したり、ユーザーごとの嗜好を分析してカスタマイズされた商品提案を行ったりと、応用範囲は多岐にわたるでしょう。
オープンソースとしての意義とMCPの存在
GooseはApache 2.0ライセンスで提供されており、商用利用から研究目的まで、幅広いシーンで自由に活用できます。BlockのCTOであるダンジ・プラサンナ(Dhanji Prasanna)氏は、「オープンソース化によって業界全体の発明や成長を加速させたい」という意図を示しています。
さらに、Anthropicとの協業によって開発された「MCP(Model Context Protocol)」がGooseの強力な後ろ盾となっています。MCPはコンテンツリポジトリやビジネスアプリケーションなどのツールとAIをつなぎ込むための標準化されたAPI群であり、将来的に対応サービスや連携パートナーが増えれば増えるほど、Gooseの利便性は飛躍的に高まると考えられます。
セキュリティとプライバシーへの配慮
Blockは金融関連サービスを提供していることもあり、データの安全性やプライバシーには特に配慮しています。Goose自体にデータを収集・転送する仕組みはなく、オンプレミスや仮想プライベートクラウド内で完結できる設計です。
「データをモデルのある場所に持っていくのではなく、モデルをデータのある環境に持っていく」ことで、情報漏洩リスクを最低限に抑えるアプローチは、今後AIが社会基盤として普及するうえで必須の要件となりそうです。
まとめと今後の展望
Gooseは「AIエージェントを誰でも手軽に構築できる」ビジョンを掲げ、オープンソースという開かれた形で公開されました。その狙いは、開発者コミュニティや企業が独自に拡張し、新たな連携や機能を生み出すことにあります。
コード変換やテスト生成などのエンジニアリング支援だけでなく、ビジネスアプリケーションやクリエイティブ分野への応用も視野に入っているため、今後は多様なシーンで「Goose製AIエージェント」が登場するかもしれません。
もし「自分の開発現場にAIを取り入れてみたい」「自社アプリと他社ツールをAIで連携させたい」という考えがあれば、Gooseの公式GitHubリポジトリをチェックしてみる価値は十分にあるでしょう。今後もコミュニティのコントリビューションによってさらなる発展が期待されるGoose。AIエージェントの可能性はまだ始まったばかりと言えそうです。