Google DeepMindの新論文Titansとは?Transformers 2.0と呼ばれる理由

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人間の脳を模した長期記憶AIが切り拓く次世代LLM

近年、大規模言語モデル(LLM)の進化が目覚ましく、ChatGPTやBingなどをはじめ、多様な分野で自然言語処理技術が活用されています。しかし、多くのLLMは「与えられた文脈(コンテキスト)の長さ」に限界があり、膨大なテキストを扱うときに性能が低下する問題を抱えていました。

今回ご紹介するGoogle DeepMind(Google Research)の新しい研究は、その弱点を大きく改善する手法を提案し、「人間の脳のような記憶システム」を持つモデルを実現するかもしれないと、注目を集めています。

この記事を読むことで、以下のようなメリットが得られます。

  1. 最新のAI研究動向を短時間で理解でき、今後の人工知能開発の方向性を予測できる
  2. 「Attention Is All You Need」以来の大きなインパクトになる可能性のある新手法「Titans」について要点を把握できる
  3. 人間の脳をヒントにした記憶メカニズムが、どのようにAIモデルの限界を突破するのか、その概要を知ることができる

普段の生活でも、“いつもと違うこと”が起こると印象に残りますよね。たとえば通勤・通学路で見慣れない光景を目にすると、記憶に強く焼き付く──そんな「驚き」を重視する仕組みをAIに取り入れるとどうなるのか? 「え、それって本当に上手くいくの?」と気になる方も多いのではないでしょうか。この記事では、まさにその疑問にお答えしつつ、新たな手法の意外な真髄に迫ります。


Titans: Learning to Memorize at Test Time とは

Google Researchが発表した論文「Titans: Learning to Memorize at Test Time」は、Transformerアーキテクチャの問題点を克服しようとする画期的なアプローチです。Transformerといえば、「Attention Is All You Need」によって大きく花開いた仕組みであり、ChatGPTをはじめ、多くの現行LLMの基盤となっています。

しかし、Transformerには大きな課題があります。それはコンテキストの長大化が進むと、モデルの計算コストやメモリ使用量が爆発的に増えてしまう点です。よく使われる比喩として「二乗に比例して計算コストが増える」という性質がありますが、この制約により「長大なテキストをすべて扱うのは現実的ではない」という場面が多々ありました。

今回提案されたTitansは、この問題に対して人間の記憶に着想を得た3つのメモリレイヤーを導入することで、長い文脈に対しても高い性能を保とうとしています。


人間の脳を参考にした「3つの記憶レイヤー」

Titansでは、人間の脳が持つ「短期記憶」「長期記憶」「持続的記憶(論文ではPersistent Memoryとも)」をモデルに組み込んでいます。

  1. 短期記憶(Core / Short-Term Memory)
    • 与えられたプロンプト(いま目の前の入力)を一時的に保持し、即時の応答に活用する領域。
    • 例えるなら、会話しているときの“今この瞬間に意識に上っている情報”を扱うイメージです。
  2. 長期記憶(Long-Term Memory)
    • 過去のやり取りやセッションをまたいだ情報のうち、“必要なものだけ”を継続して保存する領域。
    • 「驚き」があった出来事を優先的に覚え、時間が経つとだんだんと忘れる(Decayする)仕組みを採用。これは人間が「新鮮な体験や特異な出来事」を強く記憶し、平凡な日常はあまり覚えていないのと同じ考え方です。
  3. 持続的記憶(Persistent Memory)
    • モデル全体の知識や学習結果を保持するパラメータに近い領域。
    • 学習プロセスを通じて獲得した知識をモデルの“土台”として活用します。

このようにレイヤーを分けることで、“短期的に重要な情報”と、“長期的・継続的に重要な情報”をしっかりと振り分けて管理できるようになるのがポイントです。


「驚き」こそが記憶を定着させる鍵

Titansのメモリシステムで非常に興味深い点は、“何を記憶するか”を決めるときの基準として「Surprise(驚き)」を重視していることです。これは人間においても非常に自然な感覚でしょう。いつもと同じ風景では、あまり覚えていません。しかし、

  • 通学路で大きな事故を目撃した
  • めったにない自然災害が起こった

といった予想外の出来事に遭遇すると、鮮明に記憶に残ります。Titanモデルは、内部の“驚き度”の計算を通じて「ここは覚えておくべき!」と判断した情報を長期・持続的メモリに組み込むのです。

なぜ「驚き」が必要なのか

すべてを完璧に覚えようとすると、モデルのメモリや計算リソースをあっという間に使い果たしてしまい、むしろ性能が落ちてしまいます。そこで「驚き」のある情報のみを優先して記憶し、不要な情報は時間とともに忘れる(Decayする)ことで、限られたリソースを最大限に活用する仕組みを確立しています。


長大なコンテキストでも性能を保つ「Titans」の強み

Titansでは、最大200万トークン(2M tokens)を超える超長文を扱っても、従来モデル(従来型のTransformerや他の再帰型モデル)よりも高い精度を示したと報告されています。これはこれまでのLLMにとっては大きな飛躍と言えるでしょう。たとえ分厚い書籍まるごと、あるいは莫大なログデータを一度に与えられたとしても、必要な情報を“人間的な方法”で記憶しつつ応答する能力を高められる可能性があるのです。

また、「必要な情報」を適切に抜き出し、「過去に学んだ全体知識」と組み合わせる能力も評価されており、いわゆる“長文検索”や“情報要約”といった応用タスクへの活用が期待されています。


まとめと今後の展望

Google DeepMindの新しい研究「Titans: Learning to Memorize at Test Time」は、大規模言語モデルが抱えるコンテキスト処理の限界を、人間の脳を模倣した独自の記憶システムによって突破しようという壮大な試みです。論文タイトルからもわかるように、「Attention Is All You Need」以来の大きなインパクトがAI研究界にもたらされる可能性があります。

  • 人間の短期・長期・持続的メモリの考え方を取り入れたこと
  • 「驚き」や「忘れる」仕組みの導入
  • テスト(推論)時に新しい情報を効率良く取り込むメモリ構造

これらは「ただ巨大化するだけのAI」ではなく、より人間らしく柔軟な学習・記憶プロセスを持つAIを目指す、非常に革新的なステップです。

私たちの生活を振り返っても、「意外な出来事」に対して強く印象づけられるという経験は誰しも思い当たるはず。そうした人間らしい記憶の機能を、果たしてAIがどのように再現し、どれほどの成果を発揮するのか──今後の研究動向からますます目が離せません。

長大な文脈を扱う情報分析、会話システム、さらにはクリエイティブな文章生成においても、このTitansアーキテクチャの進化が新しい可能性を切り開いていくでしょう。私たちがこの記事を通じて、この新たなブレイクスルーの一端を理解することで、未来のAI活用に向けた道筋やビジョンが見えてくるかもしれません。

参考論文)Titans: Learning to Memorize at Test Time

監修者:服部 一馬

フィクスドスター㈱ 代表取締役 / ITコンサルタント / AIビジネス活用アドバイザー

非エンジニアながら、最新のAI技術トレンドに精通し、企業のDX推進やIT活用戦略の策定をサポート。特に経営層や非技術職に向けた「AIのビジネス活用」に関する解説力には定評がある。
「AIはエンジニアだけのものではない。ビジネスにどう活かすかがカギだ」という理念のもと、企業のデジタル変革と競争力強化を支援するプロフェッショナルとして活動中。ビジネスとテクノロジーをつなぐ存在として、最新AI動向の普及と活用支援に力を入れている。

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