Google DeepMindのAlphaEvolveが拓く科学的発見とアルゴリズム進化の最前線

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AlphaEvolveがTPU設計から数学の未解決問題まで「進化」させる驚異の能力

皆さんは、AIが自動でコードを書き、ソフトウェア開発を効率化する話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、AIの進化は既にそのレベルを超え、人間でも解決が困難な高度なアルゴリズム設計や、数十年、あるいは数百年も未解決だった数学の問題に挑む段階に入っています。AIが単なる補助ツールではなく、自ら新しい知識や技術を生み出す「発見者」となりつつあるとしたら、驚きませんか?

この記事では、Google DeepMindが開発した画期的なコーディングエージェント「AlphaEvolve」に焦点を当て、AIがどのようにして科学と技術の限界を押し広げているのか、その驚くべき能力と仕組みを詳しく解説します。この記事を読めば、最先端のAI技術が私たちの社会や研究にどのような影響を与えうるのか、そして未来のAIがどこへ向かっているのかを理解し、来るべきAI時代の可能性を感じ取ることができるでしょう。

この記事の内容は上記のGPTマスター放送室でわかりやすく音声で解説しています。


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AlphaEvolve:LLMと進化の力でアルゴリズムを創造する

AlphaEvolveは、Google DeepMindが開発した先進的なコーディングエージェントであり、Googleが開発した大規模言語モデル(LLM)「Gemini」を活用して、高度なアルゴリズム設計に取り組むことを目的としています。従来のLLMが持つ文書要約やコード生成、アイデア創出といった汎用的な能力 を基盤としつつ、AlphaEvolveはこれをさらに発展させ、数学や現代コンピューティング分野における根本的で極めて複雑な問題をターゲットとしています。その鍵となるのが、LLMの持つ創造性と、アルゴリズムやコードの性能を測定・評価する自動化された評価器を組み合わせた進化的なアプローチです。

AlphaEvolveの基本的なプロセスは、まずLLMが特定の課題に対してコードやアルゴリズムの候補を生成することから始まります。この際、問題の詳細、既存のコードスニペット、関連する学術文献、さらには多様なバリエーションを生成するための確率的なテンプレートなど、豊富なコンテキスト情報がLLMに与えられます。LLMはこれらの情報に基づいて、革新的なアイデアや効率的なコード構造を含む候補を生み出します。次に、生成された候補は自動化された評価関数によって厳密に評価されます。この評価関数はPythonで記述されており、対象となる問題に応じて、簡単な数学的性質のチェックから、機械学習モデルの学習・評価、複雑なシミュレーション実行まで、多岐にわたる処理を実行します。評価結果は数値的なスコアとして出力され、これが生成された候補の性能を示す指標となります。

重要なのは、この評価結果がLLMにフィードバックされ、より高いスコアを達成するような次の候補を生成するために活用される点です。AlphaEvolveは、過去に生成されたプログラムのデータベースを保持し、それらを基にさらに改善されたプログラムを生み出すという進化的なアルゴリズム設計を採用しています。これは、単にLLMに繰り返し生成させるだけの手法と比較して、複雑な問題において性能が持続的に向上することがアブレーション研究で確認されており、進化メカニズムの有効性を証明しています。また、AlphaEvolveは、より多くの候補を生成するためのGemini 2.0 Flashと、より質の高い候補を生成するためのGemini 2.0 Proという複数のLLMを組み合わせて使用することで、効率と発見の可能性のバランスを取っています。

数学とアルゴリズムの世界に新たな発見をもたらす

AlphaEvolveの最も印象的な成果の一つは、理論的な数学および応用アルゴリズムの分野における画期的な発見です。特に、コンピューティングにおいて極めて重要である行列乗算アルゴリズムの効率化において、目覚ましい進歩を遂げました。行列乗算は、AIモデルのトレーニングから科学技術計算まで、あらゆる場面で利用される基盤的な演算であり、そのわずかな効率化が計算コストの大幅な削減につながります。

AlphaEvolveは、4×4の複素数値行列を乗算するための、わずか48回のスカラー乗算で可能な新しいアルゴリズムを発見しました。これは、1969年に発表された数学者Strassenによるアルゴリズムが示した49回という記録を、56年ぶりに更新するものです。特に、特性0のフィールドにおいて49回未満の乗算で4×4行列を乗算するアルゴリズムを見つけることは、長年の未解決問題でした。AlphaEvolveは、以前の関連研究であるAlphaTensorが同じ問題に対して二進算術での限定的な改善しか達成できなかったことと比較しても、より汎用的で深い数学的な発見をもたらしたと言えます。AlphaEvolveは、この4×4行列の例だけでなく、様々なサイズの行列乗算におけるテンソル分解において、既存の最良の結果を14件で上回り、38件で同等の成果を達成しています。これにより、AlphaEvolveが発見したアルゴリズムが、幅広い行列サイズで効率的な計算を可能にすることが示されています。

行列乗算に加えて、AlphaEvolveは解析学、幾何学、組み合わせ論、数論といった理論数学の50以上の未解決問題にも適用されました。その柔軟性により、ほとんどの実験設定を数時間で完了させることができました。AlphaEvolveは、これらの多様な分野で、自己相関の不等式の上限改善、不確定性原理における定数の絞り込み、図形パッキング問題における新たな詰め込み方の発見、Erdősの最小重複問題の上限改善、有限集合の和と差に関する新たな集合の発見など、数多くの成果を上げました。特に驚くべき例として、11次元空間におけるキッシング数(互いに接することのできる単位球の最大数)の既知の下限を、従来の592から593に更新する構成を発見しました。これらの発見は、約75%のケースで既存のSOTAソリューションを再発見するか上回るものであり、AIが人間の専門家にとっても新たな視点やブレークスルーをもたらし得ることを強力に示唆しています。

コンピューティング分野における効率化と最適化

AlphaEvolveの能力は、理論的な数学の探求にとどまらず、実際のコンピューティングインフラストラクチャの効率化や最適化といった、より実践的な問題にも応用されています。その成果は、Google社内のシステムにおいて具体的な効果として現れています。

一つは、ハードウェア設計の支援です。特に、AIワークロードに不可欠なGoogleのTensor Processing Unit(TPU)の設計において、AlphaEvolveは貢献を果たしました。TPU開発における重要なステップであるRegister-Transfer Level (RTL) 最適化は、高度な専門知識を要し、数ヶ月かかる作業ですが、AlphaEvolveは、TPUの行列乗算ユニット内の既に高度に最適化された算術回路のVerilog実装に対し、機能の正確性を保ったまま、不要なビットを除去するシンプルなコード修正を提案しました。この変更はTPU設計者によって検証され、今後登場するTPUに統合される予定です。これは、GeminiがAlphaEvolveを通じてTPUの算術回路に直接貢献した初の事例であり、LLMを活用したコード進化がハードウェア設計の早期段階で最適化をもたらし、開発期間を短縮する可能性を示しています。AlphaEvolveが標準的なハードウェア記述言語であるVerilogで提案を行うことは、エンジニアとの協力を促進し、導入を容易にする上で重要です。

また、AI学習と推論のパフォーマンス向上においても顕著な成果を上げています。特に、Geminiモデルのトレーニングにおいて重要な役割を果たす行列乗算カーネルの最適化に適用されました。AlphaEvolveは、このカーネルにおける大規模な行列乗算をより小さな部分に分割する「タイリング戦略」に関するヒューリスティック関数を最適化しました。その結果、既存の専門家が設計したヒューリスティックと比較して、カーネルの実行時間を平均で23%高速化することに成功しました。これにより、Gemini全体のトレーニング時間を1%削減することができました。大規模なAIモデルのトレーニングには膨大な計算資源が必要なため、この1%の削減はかなりのコスト節約につながります。さらに、この最適化にかかる時間も、数ヶ月のエンジニアリング労力からわずか数日間の自動実験へと大幅に短縮され、研究開発の速度が向上しました。これは、GeminiがAlphaEvolveを通じて自身のトレーニングプロセスを最適化したという、非常に興味深い事例です。

加えて、Googleのデータセンターにおけるオンラインジョブスケジューリング問題にもAlphaEvolveが活用されました。この問題は、限られたCPUとメモリ資源を持つ多数のマシンに、多様な資源要求を持つジョブを効率的に割り当てるという、巨大な規模の最適化問題です。AlphaEvolveは、保留中のジョブと利用可能なマシンの資源状況に基づいてマシンの優先度を決定するヒューリスティック関数を進化させました。この関数は、シミュレーターおよび実際のフリートでの評価により、Googleのフリート全体の計算リソースを平均0.7%回復させる効果が確認されました。これは、AlphaEvolveが発見したヒューリスティック関数が、従来の深層強化学習アプローチと比較して、解釈性、デバッグ容易性、予測可能性、導入の容易さといった点で優れていたために採用された事例であり、AIによる大規模システム最適化の成功例と言えます。

さらに挑戦的な応用として、コンパイラによって生成された中間表現(IR)の直接最適化にも成功しました。Transformerモデルで広く使われているAttention機構の主要部分であるFlashAttentionカーネルと、その前処理・後処理コードを含むXLAコンパイラ生成IRを対象としました。このIRはデバッグ用に設計されており、既にコンパイラによって高度に最適化されているため、これをAIが直接編集して改善することは非常に困難な課題でした。しかし、AlphaEvolveはFlashAttentionカーネル部分を32%、前処理・後処理部分を**15%**高速化する最適化を見つけ出しました。これは、AIがコンパイラの内部ロジックに踏み込み、生成コードをさらに洗練させる能力を持つことを示しており、将来的にAlphaEvolveのような技術がコンパイラワークフロー自体に組み込まれる可能性を示唆しています。

AlphaEvolveの強み:進化と評価のループ

AlphaEvolveがこれほどまでに多様で困難な問題に対して成果を上げることができた背景には、その独自の進化的なアルゴリズム設計アプローチがあります。これは、単にLLMに答えを生成させるだけでなく、生成されたコードやアルゴリズムの**「質」を定量的に評価**し、その評価結果を次の生成に活かすという、洗練されたフィードバックループに基づいています。

この**「進化」プロセスの有効性**は、Google DeepMindが行ったアブレーション研究によって裏付けられています。評価結果をLLMへのフィードバックとして利用せず、同じ初期プログラムから繰り返し生成させるだけの手法(「進化なし」設定)と比較すると、AlphaEvolveの進化アプローチは、行列乗算のテンソル分解やキッシング数問題といった複雑な探索空間を持つタスクにおいて、計算リソースが増えるにつれて性能(ターゲットメトリック)が継続的に向上することが示されました。これは、過去の生成物から学び、その知見を次の生成に活かすという進化的なメカニズムが、単発の生成試行では到達できない、より洗練された高性能なソリューションを発見する上で不可欠であることを示しています。

AlphaEvolveのもう一つの重要な要素は、問題に合わせて柔軟に定義できるカスタマイズ可能な評価関数 evaluate です。この関数はPythonで実装され、固定の入出力形式を持ちますが、その内部ロジックは対象となる問題の特性に合わせて自由に記述できます。これにより、数学的な性質のチェックから、複雑な物理シミュレーションの実行、機械学習モデルの性能評価まで、幅広いタスクにおける性能評価を可能にしています。この精緻な評価システムが、LLMが生成した多数の候補の中から本当に価値のある、あるいは改善の可能性を秘めた候補を選び出し、進化プロセスを効率的にガイドする役割を担っています。

また、LLMへの入力(プロンプト)構成も、AlphaEvolveの成功に寄与しています。問題の明示的な説明や関連コード、文献といった基本的なコンテキストに加え、テンプレートのプレースホルダーに複数の選択肢を用意し、確率的にインスタンス化することで多様な候補を生成を促す stochastic formatting といった手法が用いられています。これにより、LLMがより幅広い可能性を探索し、既知の枠にとらわれない革新的なアイデアを生み出す機会が増大します。そして、これらの工夫によって生成された候補の評価結果がLLMにフィードバックされることで、進化のサイクルが駆動されるのです。スケジューリング問題の事例が示すように、AlphaEvolveによって発見されたコードは、深層強化学習のようなブラックボックス的なアプローチと比較して、コードとして理解しやすく、デバッグや本番環境への導入が容易であるという実用的な利点も持ち合わせています。

AIが拓く科学と産業の未来

AlphaEvolveが多様な分野で達成した数々の成果は、AIが今後の科学研究や産業技術の発展において、単なる支援ツールを超えた、より能動的かつ創造的な役割を果たすようになる未来を強く示唆しています。長年にわたり未解決だった数学問題の解決や、既存の最先端技術を超えるアルゴリズムや構成の発見は、AIが人間の専門家チームでも到達困難な領域で、真に新しい知見を生み出す能力を持つことを示しています。これは、研究者が探索すべき新たな方向性を示したり、予期せぬ発見を通じて人間の直感や理解を深めたりするなど、人間の科学的探求を強力に加速し、補完する可能性を秘めています。

同時に、TPUのような特化ハードウェアの設計支援、大規模AIモデルの学習・推論効率化、データセンターの資源最適化、コンパイラ技術の改善 など、現代コンピューティングの基盤技術に直接的に貢献している点も重要です。これらの成果は、AI開発や運用に不可欠な計算コストを削減し、より高速なイノベーションサイクルを可能にする、具体的な経済的・技術的メリットをもたらします。特に、GeminiがAlphaEvolveを用いて自身のトレーニングを最適化したことは、AIシステムが自己の性能を分析し、改善策を自動的に発見・適用する**「自己改善」のサイクル**を持つようになる可能性を示しており、極めて画期的です。

AlphaEvolveは、発見されたアルゴリズムや最適化されたコードを、VerilogやIRといった既存のエンジニアリングワークフローで標準的に使用される形式で出力します。これにより、AIの提案を人間のエンジニアが容易に理解、検証、統合することが可能となり、AIと人間の専門家との間の協調的な作業が促進されます。これは、AIが人間の仕事を奪うというよりも、人間の専門家がより創造的で戦略的なタスクに集中できるように、定型的あるいは探索的な作業を肩代わり・加速する という、理想的な関係性を示唆しています。

AlphaEvolveによるこのようなAI駆動型の科学的発見や自動最適化のアプローチは、今後、化学、生物学、物理学、気候科学 など、他の様々な科学分野や産業領域へと波及していくと予想されます。AlphaEvolveは、LLMの創造性と進化計算の探索能力を組み合わせることで、これまで人間の知力だけでは解決が困難だった複雑な問題を効率的に解き明かすための強力なツールとなることを証明しました。AIと人間の英知が協力し合うことで、科学と技術の発展がさらに加速される未来は、既に始まりつつあると言えるでしょう。

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監修者:服部 一馬

フィクスドスター㈱ 代表取締役 / ITコンサルタント / AIビジネス活用アドバイザー

非エンジニアながら、最新のAI技術トレンドに精通し、企業のDX推進やIT活用戦略の策定をサポート。特に経営層や非技術職に向けた「AIのビジネス活用」に関する解説力には定評がある。
「AIはエンジニアだけのものではない。ビジネスにどう活かすかがカギだ」という理念のもと、企業のデジタル変革と競争力強化を支援するプロフェッショナルとして活動中。ビジネスとテクノロジーをつなぐ存在として、最新AI動向の普及と活用支援に力を入れている。

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