この記事では、論文「DeepSeek-R1: Reinforcing Reasoning Ability in LLMs with Reinforcement Learning(DeepSeek-R1:強化学習によるLLMにおける推論能力の強化)」について、非エンジニアの方にも分かりやすく解説します。
DeepSeek R1の論文を読みましたか?
この論文のポイント
この論文は、DeepSeek-AIという会社が開発した「DeepSeek-R1」というAIモデルについて解説しています。DeepSeek-R1は、文章を読んで理解し、論理的に考え、問題を解決する「推論能力」に優れているのが特徴です。
とくに重要な点は以下の3つです。
- 強化学習という技術を活用:
- DeepSeek-R1は、まるでゲームのように、AI自身が試行錯誤を繰り返しながら推論能力を向上させる「強化学習」という手法を使っています。これにより、人間が教えなくても、AI自身で賢くなることができるのです。
- 2つのモデルと訓練方法:
- DeepSeek-R1-Zero:
- このモデルは、まず最初に強化学習だけで学習し、推論能力を獲得します。
- DeepSeek-R1:
- こちらは、人間の力を借りて作成した学習データと強化学習を組み合わせて学習し、さらに高い推論能力と使いやすさを目指しています。
- DeepSeek-R1-Zero:
- 小さいモデルでも高性能:
- DeepSeek-R1の推論能力を、より小さなモデルに「蒸留」するという手法で移すことで、小さいモデルでも高性能を実現しています。これにより、様々な場面でAIを活用しやすくなります。
なぜ推論能力が重要なのか
推論能力とは、簡単に言えば「考える力」です。人間が複雑な問題を解決したり、新しいアイデアを生み出すためには欠かせない能力です。AIも同様で、推論能力が高いほど、より高度なタスクをこなすことができます。
たとえば、
- 複雑な数学の問題を解く
- プログラムコードを生成する
- 論文やレポートを読んで内容を理解する
- 顧客からの質問に的確に答える
といったことが可能になります。
強化学習とは?
強化学習とは、AIがまるでゲームをプレイするように、試行錯誤を繰り返しながら学習していく手法です。
たとえば、AIが迷路ゲームをプレイする場合を想像してください。
- AIはまず、ランダムに動きます。
- 出口にたどり着いたら「報酬」が与えられます。
- 何度もプレイするうちに、AIは報酬を多くもらえるようなルートを学習していきます。
DeepSeek-R1も、この強化学習の仕組みを利用して、推論が正しかった場合に「報酬」を得ることで、より正確な推論ができるように学習していきます。
DeepSeek-R1がこれまでのモデルと決定的に違う点
①純粋な強化学習による推論能力獲得(DeepSeek-R1-Zeroの場合)
これまでの多くの言語モデルは、推論能力を向上させるために、大量の「教師ありデータ」を使って学習してきました。これは、人間が正解を教えながら学習させる方法です。
しかし、DeepSeek-R1-Zeroは、この「教師ありデータ」を一切使わずに、強化学習だけで推論能力を習得した点が、決定的に異なります。
たとえるなら、
- 従来のモデル:
- 教科書と先生がいて、正しい答えを教えてもらいながら勉強する生徒。
- DeepSeek-R1-Zero:
- 教科書も先生もいない、野生の中で生きる術を学ぶ動物。
つまり、DeepSeek-R1-Zeroは、人間が与えた知識ではなく、AI自身が試行錯誤を繰り返す中で、自力で推論能力を身につけた、という点で非常に革新的です。これは、AIが人間のように自律的に学習できる可能性を示唆しています。
②人間による初期データと反復学習による高精度な推論(DeepSeek-R1の場合)
DeepSeek-R1も、強化学習を使っていますが、DeepSeek-R1-Zeroとは異なる点があります。それは、
- 初期段階で、人間が作成した「冷間スタートデータ」を使用:
- これにより、DeepSeek-R1は最初からある程度の推論能力を持ち、学習が安定します。
- 推論能力と使いやすさを両立:
- 強化学習だけでなく、人間のフィードバックも学習に取り入れることで、より人間が使いやすいモデルになっています。
これまでのモデルは、どちらかというと、教師データによる学習に偏っていました。しかし、DeepSeek-R1は、人間とAIの協力を通して、より実用的な推論能力を獲得している点が、決定的に違います。
③大規模モデルの推論能力を小型モデルに「蒸留」
DeepSeek-R1は、推論能力が非常に高い一方で、モデルサイズが大きく、計算コストもかかります。そこで、DeepSeek-R1の推論能力を、より小さなモデルに移す「蒸留」という技術を使っています。
これにより、
- 小さなモデルでも高性能:
- 高性能な推論能力を、様々なデバイスで利用できるようになります。
- 実用的な利用の促進:
- 計算資源に制約のある環境でも、DeepSeek-R1の推論能力を利用できるようになり、AIの普及につながります。
これまでのモデルは、サイズと性能がトレードオフの関係にありましたが、DeepSeek-R1は、蒸留技術によって、小型ながら高性能なモデルを実現しています。
④その他の違い
- 推論のプロセスを重視:
- DeepSeek-R1は、答えを出すだけでなく、その過程(思考プロセス)も重視しています。これにより、AIがどのように考えて答えを出したのかを、人間が理解しやすくなります。
- 自己検証能力:
- DeepSeek-R1は、自分の答えが正しいかどうかを、自ら検証する能力を備えています。これにより、より信頼性の高い推論が可能になります。
モデルの「蒸留」とは?
モデルの「蒸留」とは、高性能なモデル(先生モデル)の知識を、より小さなモデル(生徒モデル)に効率的に伝達する技術です。たとえるなら、熟練した職人の技術を、若い見習い職人に教え込むようなイメージです。
DeepSeek-R1の推論能力を、より小さいモデルに蒸留することで、高性能ながら軽量で、様々な場面で使いやすいAIモデルが生まれます。
DeepSeek の論文のまとめ
DeepSeek-R1は、強化学習やモデル蒸留といった最先端のAI技術を駆使して開発された、推論能力に優れたモデルです。このモデルによって、AIがより複雑な問題を解決できるようになり、様々な分野での活用が期待されます。
この論文は、AIが自力で推論能力を向上させる可能性を示しており、今後のAI研究において重要な一歩となるでしょう。
参考)deepseek-ai/DeepSeek-R1/DeepSeek_R1.pdf