パソコン作業中に「あのファイル、どこに保存したんだっけ?」「数日前に見ていたあの情報、もう一度見られない?」と感じた経験はありませんか?私たちは日々膨大な情報を扱い、気づかぬうちに“探す”ことに多くの時間を費やしています。
2025年、MicrosoftはCopilot Plus PC向けに、AIを活用した新機能「Recall」や進化したWindows検索をついに正式リリースしました。これらの新機能によって、過去の作業履歴を直感的に遡ったり、自然言語でPC内を高速かつ柔軟に検索できるようになります。
本記事では、RecallやAI検索がどのような体験をもたらすのか、そして同時に浮かび上がるプライバシーへの不安や、その対策についても詳しく解説します。
Recallとは何か?—“記憶するPC”がもたらす変革

MicrosoftがCopilot Plus PC向けに提供を開始した「Recall」は、まるで“あなたのPCがすべてを記憶してくれる”かのような画期的機能です。Recallは、PCでの操作や閲覧内容を自動的にスナップショットとして保存し、時系列で遡れる「タイムライン」として提供されます。従来のWindows検索のように「ファイル名」や「保存場所」を頼りにするのではなく、「あの時見た青い表紙の資料」「先週の午後に編集した表計算」といった曖昧な記憶でも検索が可能になるのです。
Recallの最大の特徴は、テキスト情報だけでなくWebページや画像、アプリの画面など、PC上で目にしたほぼすべてのコンテンツを“記憶”し、AIが自動的にカテゴリー分けや内容解析を行う点にあります。これによって、従来は記憶頼みだった“過去の作業”の再発見が、まるで記憶を遡るような直感的操作で実現可能となりました。
しかし、その分だけ保存される情報量も膨大です。Recallは「PC内の情報をすべて可視化する」利便性を提供する一方で、「自分の行動履歴がすべてデジタル化される」という新たな心理的ハードルも生み出しています。まさに、利便性とプライバシーがせめぎ合う新時代の到来を感じさせる機能なのです。
セキュリティとプライバシー—Recallは本当に安全なのか?

Recallの最大の懸念点は、やはりプライバシーとセキュリティです。実はRecallは、2024年にCopilot Plus PCと同時リリースが予定されていましたが、セキュリティ専門家から「保存されるデータ量の多さ」「不正アクセス時のリスク」など、多くの指摘が寄せられ、正式リリースが延期されていました。その後、Microsoftは約10か月もの時間をかけてRecallのセキュリティを根本から見直し、ついに満を持して一般提供に踏み切ったのです。
現在のRecallは、保存されるデータベースが暗号化され、第三者が容易にアクセスできないよう設計されています。また、個人情報や金融情報、パスワードなど“センシティブな情報”を自動的にフィルタリングする仕組みも搭載。さらに、Recall自体の利用も“オプトイン”(利用者が明示的に有効化)方式へと変更され、プライバシーへの配慮が強化されています。
ただし、専門家の検証によると「フィルタリングが完璧に機能しない場合がある」「PINによる簡単な解除が可能なため、より強固な認証が望ましい」など、まだ改善の余地も指摘されています。Microsoft公式によれば、Recallを有効にするには顔認証または指紋認証といった生体認証をWindows Helloで設定する必要があるとされていますが、実際の運用ではPINだけで解除できてしまうケースも報告されています。
このようにRecallは、最先端の利便性と新たなプライバシーリスクのバランスの上に成り立っています。今後、利用者自身がどの範囲までRecallで記録し、どこまでプライバシーを守るかの“線引き”をすることが、より重要になるでしょう。
AIで生まれ変わるWindows検索—「自然言語検索」
Recallの登場に伴い、Windows検索自体も大きく進化しています。従来の検索は「ファイル名」「拡張子」「日付」など、PCに詳しい人でないと使いこなしが難しいものでした。しかし新しいAI搭載のWindows検索は「自然言語検索」に対応し、まるで人と会話するような感覚でPC内の情報を探し出せるのが大きな特徴です。
たとえば、「去年の夏に撮った家族写真が見たい」「茶色い犬の画像を探して」といった曖昧なリクエストに対しても、AIが画像やテキスト内容を解析し、該当するファイルを一覧表示します。設定項目の検索も、「明るさの設定を変えたい」「Wi-Fiのパスワードを確認したい」などの言葉で検索すれば、該当する設定画面にダイレクトにアクセス可能です。
さらに、画像や文書の内容までもAIが認識し、「この文書に書かれていたあのグラフ」「青い背景のプレゼン資料」など、従来の検索ではたどり着けなかった情報もスムーズに見つけ出せます。
このようなAI検索は、情報量が多いビジネスユーザーやリモートワーカーにとって特に大きな武器となるでしょう。作業効率の飛躍的向上と、「探すストレス」からの解放を現実のものにする、まさに次世代の検索体験がここにあります。
Click to Do—画面上の“今”にダイレクトアクション
RecallやAI検索と並んで注目されるのが「Click to Do」機能です。これは、Googleの「Circle to Search」に似たもので、画面上のあらゆるテキストや画像に対して、ワンクリックでAIがアクションを提案するというもの。たとえば、画面上の文章をハイライトして要約させたり、画像の中から不要なオブジェクトを除去したりといった操作が、Windowsキー+マウスクリック一発で実行できるのです。
Click to Doは、いわば「見ているものにその場でAIが意味づけし、直感的に操作できる」新しいインターフェース体験を提供します。これにより、従来は複数のアプリを行き来していた作業や、専門知識が必要だった画像編集なども、誰でも簡単に扱えるようになります。
また、Click to Doは今後さらにアクションのバリエーションが増える見込みであり、「AIがユーザーの“今必要なこと”を理解して手助けする」存在へと進化が期待されています。このようなAI活用による“ワンクリック体験”は、パソコン操作に不慣れな人にとっても敷居を下げ、より多くのユーザーが複雑な作業を直感的にこなせる時代の到来を予感させます。
まとめ:Recall・AI検索・Click to Doがもたらす未来のPC像

AIと共に歩む新しいWindows体験は、私たちの日常をより便利に、より直感的にしてくれる一方、プライバシーや情報管理の新たな課題も突きつけています。RecallやAI検索、Click to Doといった次世代機能の本質を理解し、自分に合った使い方を選ぶことで、未来のPCとの良好な関係を築いていきたいものです。