Alibaba Qwen3.5 Medium登場:ローカルで100万トークンと高性能を両立

AI活用ブログ
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Alibabaが公開した「Qwen3.5 Medium」シリーズは、ローカル運用とフロンティア級の長文処理(最大100万トークン級)を同時に狙った、企業向けにも現実的な選択肢です。従来は大規模なクラウドAPIでしか扱いづらかった超長文コンテキストやエージェント機能が、オープンソース(Apache 2.0)と量子化前提の設計により、手元のGPU環境へ降りてきました。本記事では、モデル構成、性能の背景、技術要点、プロダクト設計、価格、そして企業導入の示唆をB2B視点で整理します。


最近「社外に出せないデータで生成AIを使いたい」という相談をいただきます。ChatGPTの利用は社内で禁止されているそうです。セキュリティやコスト面が気になる企業には、社内のローカル環境で動かせる仕組みがあることはご存知ですか?
OpenAIのオープンなAIモデル「gpt-oss」も利用いただけます。

Qwen3.5 Mediumの概要:オープンソース3モデルとAPI提供「Flash」

Qwen3.5 Mediumは4つのモデルで構成され、うち3モデルがApache 2.0で商用利用可能なオープンソースとして提供されます。配布先はHugging FaceおよびModelScopeで、社内検証から本番展開までの導入ハードルが下がっています。

1. Qwen3.5 Mediumの概要:オープンソース3モデルとAPI提供「Flash」
1. Qwen3.5 Mediumの概要:オープンソース3モデルとAPI提供「Flash」
  • Qwen3.5-35B-A3B(MoE構成、ローカルで100万トークン級を狙う旗艦)
  • Qwen3.5-122B-A10B(サーバー級GPU向け、100万トークン級でフロンティアに接近)
  • Qwen3.5-27B(効率重視、80万トークン超をターゲット)
  • Qwen3.5-Flash(Alibaba Cloud Model Studio API提供のプロプライエタリ)

特筆点は、オープンソース側が「ローカルPCでも長文×高性能」を強く意識して設計されていること、そしてAPI側のFlashが「運用に必要な機能(ツール、キャッシュ、長文)を揃えつつ低価格」を前面に出していることです。つまり、オンプレ/ローカルとAPIの両輪で、企業の要件(データ主権、コスト、開発速度)に合わせた選択が可能になっています。

性能のポイント:ベンチマークでSonnet 4.5/GPT-5 miniを上回る理由

公開情報では、Qwen3.5-35B-A3Bが第三者ベンチマークで、同クラスのクローズドモデルであるAnthropic Claude Sonnet 4.5やOpenAI GPT-5 miniを上回ったとされています。ここで重要なのは「単にパラメータ総量が大きい」からではなく、設計上の効率によって実効性能を引き上げている点です。

上回りやすい領域(示された例)

  • 知識系(MMMLU)
  • 視覚推論(MMMU-Pro)
  • エージェント的なツール呼び出しを含む実運用シナリオ(早期利用者の評価)

企業利用の観点では、ベンチマークの順位そのものよりも「同等以上の成果を、より少ない計算資源・より低い推論コストで得られるか」が意思決定の軸になります。Qwen3.5 Mediumは、MoEによりトークンごとの有効パラメータを絞り、さらに量子化耐性を高めることで、推論レイテンシとメモリ要件を現実的な水準に寄せています。結果として、比較対象の“高価なAPI前提”のモデルに近い(あるいは一部で上回る)体験を、ローカルや安価なAPIで提供しやすくなります。

技術解説:Gated Delta Networks×MoEと4bit量子化でローカル運用を実現

Qwen3.5の中核は、標準的なTransformer一辺倒ではなく、Gated Delta NetworksとスパースMixture-of-Experts(MoE)を組み合わせたハイブリッド設計にあります。これにより「総パラメータは大きいが、毎トークンで使う計算は抑える」という方向で効率化しています。

3. 技術解説:Gated Delta Networks×MoEと4bit量子化でローカル運用を実現
3. 技術解説:Gated Delta Networks×MoEと4bit量子化でローカル運用を実現

MoEの効率:35Bでも“常時フル稼働しない”

Qwen3.5-35B-A3Bは総パラメータが350億規模でありながら、トークンあたりの活性パラメータは約30億とされます。MoE層では256のエキスパートを持ち、ルーティングされる8エキスパート+共有1エキスパートといった構成により、性能とレイテンシのバランスを取ります。B2Bでの価値は、同等の品質を狙う際に「GPU台数・VRAM・電力・待ち時間」を圧縮できる可能性がある点です。

4bit量子化とKVキャッシュ量子化:長文コンテキストを“メモリに載せる”

もう一つの鍵が量子化耐性です。Qwen3.5 Mediumは4-bit重み量子化に加え、KVキャッシュ量子化でも精度劣化が小さい(near-lossless)ことを強調しています。長文コンテキストではKVキャッシュがメモリを圧迫しやすいため、ここが効くと「長文を扱えるかどうか」が一気に現実解になります。

旗艦のQwen3.5-35B-A3Bは、32GB VRAMのコンシューマ向けGPUでも100万トークン級コンテキストを超えうるとされます。全社文書、契約書群、過去の問い合わせログ、要件定義資料、議事録、設計書などを“分割せずに”扱えることは、RAGの設計や評価の難易度を下げ、分析の一貫性を高めます。

プロダクト設計:Thinking Mode・ツールコーリング・モデル別の最適環境

Qwen3.5 Mediumは、モデル単体の賢さだけでなく「業務で使う形」に寄せたプロダクト設計が目立ちます。特に、推論を前提にしたThinking Modeと、エージェント実装に不可欠なツールコーリングが標準機能として用意されています。

Thinking Mode:複雑タスクの安定性を上げる設計

Thinking Modeは、最終回答の前に内部推論(思考)を行うことを前提にしたモードです。企業の実務では、手順の多い分析、条件分岐が多い規程チェック、複数資料の突合、例外処理の洗い出しなどで“途中で破綻しない”ことが重要になります。ここに最初から最適化している点は、PoCから本番に上げる際の手戻り削減に効きます。

ツールコーリング:検索・実行・検証をワークフロー化

ツールコーリングは、Web検索、社内DB参照、コード実行、チケット発行、CRM更新などを、モデルが手続きとして呼び出すための基盤です。単なるチャットではなく、業務プロセスの中で“作業を進めるAI”を作る場合、ツール呼び出しの安定性とコスト設計が重要になります。

モデル別の想定環境

  • Qwen3.5-27B:効率重視。比較的手頃なGPU環境で80万トークン超を狙う選択肢
  • Qwen3.5-35B-A3B:MoEで性能と効率を両立。32GB VRAM級で100万トークン級に挑戦しやすい
  • Qwen3.5-122B-A10B:80GB VRAM級などサーバー向け。長文+高性能で上位モデルに迫る用途
  • Qwen3.5-Flash:APIで即運用。公式ツールやキャッシュ機構込みで本番に寄せやすい

導入判断では「誰が、どのデータを、どの頻度で、どれくらいの長さで扱うか」を先に固定し、必要なコンテキスト長とレイテンシ要件からモデルと実行基盤(ローカル/オンプレ/API)を逆算するのが現実的です。

価格と導入選択:Alibaba Cloud APIのコスト比較と使い分け指針

自前ホスティングが難しい場合、Alibaba Cloud Model StudioのQwen3.5-Flashはコスト面で強い選択肢です。提示されている価格は以下の通りです(いずれも100万トークンあたり)。

5. 価格と導入選択:Alibaba Cloud APIのコスト比較と使い分け指針
5. 価格と導入選択:Alibaba Cloud APIのコスト比較と使い分け指針
  • 入力:$0.10
  • 出力:$0.40
  • キャッシュ作成:$0.125
  • キャッシュ読み取り:$0.01

さらにツールコーリングは、Web Searchが1,000回あたり$10、Code Interpreterは期間限定で無料とされています。長文+エージェントでは、トークン課金だけでなく「キャッシュ」「ツール呼び出し」が総額を左右するため、この粒度での課金設計は業務設計に落とし込みやすい要素です。

コスト比較の見方(B2B実務)

公開されている比較表では、Qwen3.5-Flashの入出力合計は$0.50/1M tokensで、Claude Sonnet 4.5($18.00)やGPT-5.2($15.75)などと比べ大幅に低い水準です。もちろんモデル特性や得意領域は異なるため単純比較は禁物ですが、「大量に回す業務(要約、分類、監査下書き、ヘルプデスク一次対応、ログ解析)」では総コストに直結します。

使い分け指針

  • まず成果物の品質を最優先し、試験的に最上位APIを使う:要件定義・評価設計フェーズ向き
  • 運用時はQwen3.5-Flashでスループットとコスト最適化:定型処理・大量処理向き
  • 機密データや規制対応が強い領域はオープンソースをオンプレ運用:データ主権を優先
  • 長文コンテキストが必須なら、量子化前提でローカル/オンプレを検討:RAG分割の複雑さを削減

「APIで早く立ち上げ、勝ち筋が見えたらオンプレに寄せる」または「機密はオンプレ、非機密はAPI」という二層構えが、調達・セキュリティ・スピードのバランスを取りやすい現実解です。

企業への示唆:オンプレでのデータ主権・セキュリティ・エージェント活用

Qwen3.5 Mediumが企業にもたらす最大の示唆は、「高度なAI活用が、巨額のクラウド費用や巨大研究チームに依存しにくくなる」点です。特に、長文コンテキストをローカルで扱えるようになると、データの持ち出しリスクを抑えながら、組織知を深く活用できます。

データ主権とセキュリティ

契約書、顧客情報、設計図、インシデント記録、監査資料など、外部APIに投入しづらいデータは多くの企業に存在します。オンプレ(あるいは閉域)でMoEモデルを回し、社内ファイアウォール内で完結させれば、データ所在の説明責任や監査対応を組み立てやすくなります。さらに、長文を“丸ごと”扱えることで、分割・再結合・検索ログの管理といった追加リスクも減らせます。

エージェント活用:ツール前提で業務を再設計する

ツールコーリングが標準化されると、AI活用は「質問に答える」から「仕事を進める」へ移ります。例えば、社内規程と過去事例を参照しながら申請書の不備を指摘し、必要な差戻し文面を作り、チケットを起票する、といった一連の流れをワークフロー化できます。ここで重要なのは、モデル性能だけでなく、権限管理、監査ログ、実行結果の検証(ガードレール)をセットで設計することです。

非技術部門でも回る運用へ

オープンソース+量子化耐性+比較的少ないVRAMでの長文処理は、AI導入を情報システム部門だけの専業にしない可能性を広げます。もちろん運用設計とガバナンスは必要ですが、PoCの反復速度が上がれば、業務部門主導での改善サイクル(要件→評価→微調整)が回しやすくなります。

まとめ

Qwen3.5 Mediumは、オープンソース3モデル(Apache 2.0)とAPI提供のFlashを揃え、長文コンテキスト(最大100万トークン級)と高性能を、ローカル/オンプレでも狙える形に落とし込みました。Gated Delta Networks×MoEにより「総量ではなく効率」で性能を引き上げ、4bit重み・KVキャッシュ量子化の精度維持によって、長文処理の現実性を高めています。企業としては、機密・規制・コスト・スピードの要件に応じて、API活用とオンプレ運用を組み合わせ、Thinking Modeとツールコーリングを前提に“業務が進むAI”へ設計を寄せることが、投資対効果を最大化する近道になります。

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監修者:服部 一馬

フィクスドスター㈱ 代表取締役 / ITコンサルタント / AIビジネス活用アドバイザー

非エンジニアながら、最新のAI技術トレンドに精通し、企業のDX推進やIT活用戦略の策定をサポート。特に経営層や非技術職に向けた「AIのビジネス活用」に関する解説力には定評がある。
「AIはエンジニアだけのものではない。ビジネスにどう活かすかがカギだ」という理念のもと、企業のデジタル変革と競争力強化を支援するプロフェッショナルとして活動中。ビジネスとテクノロジーをつなぐ存在として、最新AI動向の普及と活用支援に力を入れている。

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