Googleが描くAIエージェントの未来と知っておくべき5つのポイント

AIニュース
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2025年1月6日 — Googleが昨年9月にひっそり公開したホワイトペーパー「Agents」は、AIが今後ビジネスにおいてどのように“より主体的かつ独立した役割”を担う可能性があるかを示す、刺激的な内容となっていました。

本記事では、Googleホワイトペーパーで語られている“AIエージェント”とは何か、その技術的背景とビジネスへの影響を5つの重要なポイントにまとめて解説します。

従来のAIモデルとは一線を画す、主体的に行動する「AIエージェント」

これまでの大規模言語モデル(LLM)は、学習済みデータから回答を生成することに特化していました。たとえば、GPT-4やGoogleのGeminiのように、高度な言語処理は可能ですが、“学習データの範囲を超えた能動的なアクション”は難しいのが現状です。

AIエージェントは、自分で状況に応じた意思決定を行う

一方、ホワイトペーパーで定義されるAIエージェントは、外部システムやリアルタイムの情報源と連携し、タスクを遂行するという特性を持ちます。単なる応答型のモデルではなく、状況に応じて意思決定を行い、複数のステップにわたるタスクを自律的に実行できるのです。

(例): 旅行プランを立てる際、従来の言語モデルは「おすすめの都市」「大まかな日程」を提案するだけですが、AIエージェントであれば、実際にフライトやホテルの空き状況を確認し、予約まで行うことが可能です。

こうしたエージェントは複数の人間が担っていた業務を1つの“デジタルワーカー”として処理できる可能性があります。顧客対応やロジスティクスなど様々な業務の自動化につながり、ビジネスにおける効率化を大きく後押しすると期待されています。

意思決定を支える「認知アーキテクチャ」

エージェントに自律的なタスク遂行を可能にする要素として、Googleは「オーケストレーションレイヤー(orchestration layer)」と呼ばれる認知アーキテクチャを紹介しています。これは以下のような流れで動作します。

  1. ユーザーの入力や周辺環境から情報を取得
  2. 目標達成のために必要なステップを推論
  3. その推論結果に基づいて実行し、結果を検証
  4. 次のステップに反映させる

このプロセスは、シェフが料理を作る際に「材料選び」「手順の見直し」「味見・フィードバックの反映」を繰り返すのと同様で、タスクの進行状況に応じて最適な判断を下せる点が特徴です。

ホワイトペーパーに示された手法

さらにホワイトペーパーでは、下記のような推論手法が例示されています。

  • ReAct (Reasoning and Acting):
    • リアルタイムに推論とアクションを組み合わせる手法
  • Chain-of-Thought (CoT):
    • タスクを段階的に分割して推論する手法
  • Tree-of-Thoughts (ToT):
    • 複数の解決策を並行して検討し、最適解を導く手法

これらのフレームワークを組み合わせることで、単に与えられた質問に答えるだけでなく、複雑で不確実性の高い状況下でも柔軟に対処できる“プロアクティブ”なエージェントが実現できるとされています。

ツールの活用でトレーニングデータの制約を突破

従来のAIモデルは“学習済みデータ”という大きな制約がありました。しかし、AIエージェントは外部のAPIやデータソースを“ツール”として連携できるため、最新の情報や限定的な内部データにもアクセスできます。ホワイトペーパーでは以下のように説明されています。

「ツールはエージェント内部の能力と外部世界を結ぶ架け橋となる」

たとえば、ビジネス出張のプラン作成を依頼されたエージェントは、以下の一連の作業を自動的に実行し、意思決定を進めます。

  • 航空券予約APIを使ってフライト時刻を照会
  • 社内ポリシーを格納したデータストアから最新の規定を取得
  • 外部マップ情報からホテル位置を検索

開発者はFunctionsなどを活用して、企業独自のデータや機能を細かく制御できます。金融や医療といった厳格なコンプライアンスが必要な業界でも、データや操作権限を限定することで安全かつ効率的にエージェントを導入できる可能性が示唆されています。

RAGで実現する高精度な応答

ホワイトペーパーの中でもとくに注目されるのが、Retrieval-Augmented Generation(RAG)を活用したアーキテクチャです。

RAGによって、エージェントは必要に応じて外部のベクターデータベースやドキュメントを検索し、“学習データだけでは補えない最新かつ正確な情報”を獲得できます。

「データストアを通じて、エージェントはより動的でリアルタイムの情報にアクセスできるようになる」

株式市場のように情報の変化が激しい領域や、医学研究のように新たな知見が日々更新される領域において、RAGを組み合わせたエージェントは大きな強みを発揮します。さらに、情報を参照することで「幻覚(ハルシネーション)」のリスクを低減し、信頼性の高い回答を行うことが可能になります。

エージェント導入を加速させるGoogleのプラットフォーム群

ホワイトペーパーでは、AIエージェントを実際の業務へ展開するうえで役立つ2つの主要プラットフォームとして、LangChainVertex AIが紹介されています。

  • LangChain:
    • 推論ステップと外部ツール呼び出しを簡潔に連携させるオープンソースの開発フレームワーク
  • Vertex AI:
    • 大規模なエージェントをデプロイ・運用するためのマネージドプラットフォーム。開発者はエージェントのテストやデバッグ、パフォーマンス評価に集中できる

これらのプラットフォームを使うことで、エージェントの開発から運用までのハードルが下がり、“実用レベル”のAIシステムを短期的に立ち上げられるとしています。ただし、同時に考慮すべきリスクや課題も挙げられています。たとえば、業務工程の自動化が進むことで、

  • 過度な自動化への依存
  • 意思決定プロセスのブラックボックス化
  • データやプライバシーの取り扱い

といった問題に対して、企業は十分に意識しなければなりません

まとめ:企業にとっての「エージェント導入」とは

Googleのホワイトペーパーが示す「AIエージェント」は、単なるLLMのアップグレードではなく、ビジネスの在り方そのものを大きく変える技術です。

複雑なタスクを自律的にこなし、状況に応じて学習・判断し、実行する。これによって大幅な効率化が見込める反面、ビジネスプロセスを根本から再設計する覚悟も必要になります。

「基盤となる生成モデルが異なれば、エージェントの性質も異なる。企業は自社に合ったエージェントを設計し、統合していくことが求められる」

この技術の恩恵を最大限に活用するには、以下のステップが欠かせません。

  • 小規模な導入から始めて効果を検証する
  • 社内・業界の法規制に従ってデータやプロセスを最適化する
  • 導入・運用ステージでのリスク管理を徹底する

AIエージェントの普及が加速するなか、このトレンドを先取りできる企業こそが、将来的な競争優位を築けるでしょう。

参考)Agents(PDF)

監修者:服部 一馬

フィクスドスター㈱ 代表取締役 / ITコンサルタント / AIビジネス活用アドバイザー

非エンジニアながら、最新のAI技術トレンドに精通し、企業のDX推進やIT活用戦略の策定をサポート。特に経営層や非技術職に向けた「AIのビジネス活用」に関する解説力には定評がある。
「AIはエンジニアだけのものではない。ビジネスにどう活かすかがカギだ」という理念のもと、企業のデジタル変革と競争力強化を支援するプロフェッショナルとして活動中。ビジネスとテクノロジーをつなぐ存在として、最新AI動向の普及と活用支援に力を入れている。

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