AIアシスタントが急速に進化する中、そのトレーニングコストや開発の障壁は依然として高いハードルとなっています。とくに検索エンジンを活用したAIの訓練には、信じられないほどのAPI費用がかかり、資金力のある大企業以外は参入が難しい状況が続いています。
このような課題に直面している開発者や企業にとって、「ZeroSearch」という新技術はまさに救世主となるかもしれません。本記事では、Alibabaが発表したZeroSearchの仕組みとその革命的なインパクト、さらに今後のAI開発の風景がどのように変わるのかを詳しく解説します。
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AI開発における検索エンジン依存の“壁”

AIアシスタントの開発において、インターネット上から最新情報を検索・取得する能力は不可欠です。従来、AIがこうした“検索力”を身につけるためには、GoogleやBingなどの商用検索エンジンAPIを何十万回も呼び出して訓練を行う必要がありました。
しかし、この方法には大きな課題が2つあります。まず、APIの利用には多額のコストが発生します。たとえば6万4000件の検索クエリをGoogle Searchで実行すると、約600ドル(約9万円)の出費となります。
また、API経由で取得できる情報の質や内容はコントロールが難しく、トレーニングの再現性や一貫性にも課題が残ります。これらの問題は特に、スタートアップや資金力の限られた開発者にとって大きな障壁となってきました。
ZeroSearchとは何か? その革新的アプローチ

Alibabaが発表したZeroSearchは、こうした検索エンジン依存の課題を根本から覆す新しいアプローチです。ZeroSearchの最大の特徴は、「AIが自ら検索エンジンのように振る舞うことを学ぶ」点にあります。
従来の手法では、リアルな検索エンジンと頻繁にやり取りしなければならなかったのに対し、ZeroSearchは大規模言語モデル(LLM)が“シミュレーション”によって検索能力を獲得する仕組みを採用しています。
具体的には、まず軽量な教師ありファインチューニングを通じて、LLMを「検索モジュール」として訓練します。この検索モジュールは、与えられたクエリに対して関連性の高い文章や低い文章を生成することができるようになります。
その後、強化学習のプロセスで、あえて生成文書の品質を段階的に下げる「カリキュラム戦略」を用いて訓練を進めます。これにより、モデルはより現実の検索エンジンに近い多様な結果を自律的に生成し、検索スキルを磨くことができるのです。
驚異的なコスト削減とパフォーマンス向上
ZeroSearchの最大の魅力は、圧倒的なコスト削減効果と高い検索精度にあります。Alibabaの研究チームによると、従来のGoogle Search APIを用いた場合と比べて、ZeroSearchでは訓練コストを約88%も削減できるとのことです。
たとえば、14BパラメータのシミュレーションLLMを使い、4台のA100 GPUで訓練した場合、そのコストはわずか70.8ドル(約1万円強)となります。
また、ZeroSearchはコスト面だけでなくパフォーマンスでも従来手法を上回る成果を見せています。7つの質問応答データセットでの実験では、ZeroSearchで訓練した7BパラメータのモデルがGoogle Search APIを用いたモデルと同等の精度を達成。
さらに14Bパラメータのモデルでは、Google Search APIを上回る正答率を記録しました。この結果は、現実の検索エンジンと遜色ない、あるいはそれ以上の“検索力”をAI自身が身につけられることを意味します。
AI業界に与えるインパクトと新たな可能性
ZeroSearchの登場は、AI開発の現場に劇的な変化をもたらす可能性があります。これまで大規模な計算資源やAPIコストが必要だった高度なAIアシスタントの開発も、ZeroSearchによって低コストかつ効率的に実現できるようになります。
とくに資金力の限られたスタートアップや中小企業にとっては、AIアシスタント市場への参入ハードルが大きく下がるでしょう。
また、ZeroSearchはAPI経由で外部サーバーにデータを送信する必要がなく、検索訓練のデータ制御やプライバシー管理の面でも有利です。独自の文書セットや専門的なナレッジベースを使ったAIの開発も、より柔軟かつ安全に行えるようになるでしょう。さらに、複数の言語や分野に対応したカスタマイズも容易になるため、業界や用途に特化した“賢いAIアシスタント”が次々と登場することが予想されます。
ZeroSearch:まとめ

ZeroSearchの登場は、AI開発のパラダイムを根本から変えるポテンシャルを秘めています。今後、AIの自己学習能力がさらに高まり、検索能力だけでなく推論や意思決定に至るまで、“外部サービスへの依存ゼロ”のAI開発が主流になるかもしれません。加えて、こうした技術のオープン化や標準化が進めば、世界中の開発者が公平な条件でAIを活用できる社会が実現するでしょう。