TeslaのAI戦略が描く自動運転の近未来
「Teslaは自動車メーカー」という常識を覆すかもしれない事実をご存じでしょうか? 実は彼らはフルセルフドライビング(FSD)の実現を目指す“AI企業”として膨大なデータを駆使し、独自のスーパーコンピューター「Dojo」を開発しています。
この記事では、その初登場から最新の動向、そして新たに姿を現した「Cortex」までを時系列で振り返り、Teslaが描く自動運転の未来を探ります。読めば「完全自動運転は本当に実現するのか?」といった疑問にも納得できるはず。最先端のAI技術や、イーロン・マスクの大きな野望に興味がある方は必見です。
Teslaが目指すAI企業としての道
Teslaは単に電気自動車を販売する企業ではありません。イーロン・マスクCEOは「自動車メーカー」から一歩進んだ“AI企業”への脱皮を目指しており、その核心にあるのが自社開発の超高性能スーパーコンピューター「Dojo」です。もともとFSD(Full Self-Driving)は、まだドライバーの監視が必要な段階ですが、巨額の投資と「Dojo」の圧倒的な演算力で真の自動運転を実現しようとしています。
2019年:Dojoの初言及
- 4月22日(Autonomy Day)
Teslaが自動運転技術とAIチームを公に披露したイベントで、マスク氏が初めて「Dojo」という言葉を口にしました。自動運転専用のハードウェアをすでに車両に搭載済みと明かし、ソフトウェアのアップデートのみで“完全自動運転”が可能になるとアピール。DojoはそのためのAIトレーニングを高速化する大規模コンピューターだと語られました。
2020年:Dojo構想の具体化
- 2月2日
マスク氏は「Dojoによって膨大なビデオトレーニングデータを効率的に処理し、非常に多くのパラメータを扱えるようになる」と強調。Tesla車が世界中から送信する映像データを学習し、人間を超える安全性を目指すという壮大な構想を改めて示しました。 - 8月14日
「Dojoの初期バージョンは約1年後に登場する」との発言があり、具体的な開発スケジュールにも言及。 - 12月31日
「Dojoは必須ではないが、実現すれば自動運転がさらに良くなる」と、あくまで投資リスクが高いプロジェクトであることをうかがわせつつも、期待値は下げませんでした。
2021年:TeslaのAI DayでDojoを正式発表
- 8月19日(Tesla AI Day)
ついに「Dojo」の名を冠したD1チップが正式に公表されました。NvidiaのGPUと併用する形で「数千個のD1チップ」を組み合わせた巨大クラスタを構築するプランが説明され、AIエンジニアの採用にも力を入れる姿勢を打ち出しました。 - 10月12日
「Dojo Technology Whitepaper」として、新しい浮動小数点演算の技術仕様を公開。深層学習向けにカスタマイズされたフォーマットで、ソフトウェア・ハードウェア両面の最適化が可能だと示されています。
2022年:Dojoの進化と実機テスト
- 9月30日(2回目のAI Day)
初めて「Dojo」システムを構成するキャビネットを導入し、2.2メガワットの負荷試験を実施中であると発表。1日1タイル(25枚のD1チップ)を製造しているとも言及し、Stable Diffusionを用いたデモンストレーションも披露しました。
さらに、2023年第1四半期までに「Exapod」と呼ばれる大規模クラスタを完成させる計画と、合計7つのExapodをPalo Altoに構築する目標を掲げます。
2023年:Dojoは「長期的な賭け」
- 4月19日(第1四半期決算)
マスク氏は「DojoによってAIトレーニングコストが桁違いに下がり、将来的には外部企業にも提供する可能性がある」と述べつつ、「長期的な賭けだが価値はある」と慎重な姿勢も示しました。 - 7月19日(第2四半期決算)
TeslaがDojoの生産を開始し、2024年までに10億ドル超を投資すると明言。日々膨れ上がる映像データを処理し続けるため、NvidiaのGPU調達も急務としています。
2024年:DojoとCortexのデュアル戦略
- 1月26日
Teslaはニューヨーク州バッファローに5億ドルを投じ、Dojoの一部を建設すると発表。マスク氏は「5億ドルは大きいが、NvidiaのH100を1万枚そろえるのと同程度」とコメントし、巨額のAI関連投資は当たり前という認識を示しています。 - 5月20日
テキサス工場(通称Giga Texas)拡張部に、水冷式の超高密度コンピュータクラスターを導入予定であると明かしました。 - 8月3日
テキサス工場で新たに建設中の大規模クラスタを「Cortex」と呼び、今後10万枚規模のNvidia GPUを搭載する計画が進行していることを示唆。
2025年:Dojoの続報はなし、Cortexが台頭
- 1月29日(2024年Q4決算)
投資家向け資料と決算発表では「Cortex」の完成が強調されました。一方、Dojoに関する具体的な新発表はなく、Cortexによって強化されたFSDバージョン13が大きく取り上げられます。AI関連設備への累計投資額は50億ドルに到達し、今後は“現状維持”としてさらなる追加投資はしばらく行わない見通しです。
Teslaが描く自動運転の未来には、膨大なデータと超高性能の計算資源が不可欠。その要として期待される「Dojo」はなお開発途上ですが、並行して爆速で構築される「Cortex」が最終的にはどう組み合わさるのか。まだ結末は見えませんが、FSDの進化とTeslaのAI戦略を追い続ける上で、この2つのプロジェクトは目が離せない存在です。