本記事では、最新の研究や市場の変化から浮かび上がる2025年のAIトレンドを4つ紹介します。
1. 推論コストの大幅な低下

2023年から2024年にかけて、OpenAIなどが提供する最先端の大規模言語モデル(LLM)の推論コストは劇的に下がり続けています。
たとえば、OpenAIのトップクラスのLLMでは、過去2年で100万トークンあたりの価格が200倍以上も削減されました。今後もこの価格競争と技術進歩が推論コストをさらに下げると見られています。
推論コスト低下の背景
- 競合の激化
企業向けアプリケーションにおいて、多くの最先端モデルは“必要十分”な性能を持つようになりつつあるため、ユーザーがモデルを乗り換えやすい状況になっています。結果的に価格競争が激しくなり、推論コストが下がる要因となっています。 - アクセラレーターや専用ハードウェアの進歩
AI推論専用のチップやサーバが進化することで、計算リソースの効率が上がり、モデルを低コストで提供できるようになります。
企業が取るべきアクション
推論コストは今後も継続的に下落し、かつモデル自体の性能も向上していきます。コストがネックで導入を躊躇している場合でも、まずは最新のLLMを使った小規模な実証実験(PoC)を始めてみるのが得策です。コストが下がったタイミングで、本格的にスケールアップできる準備をしておくとよいでしょう。
2. “推論時間拡張”を伴うラージ・リーズニング・モデル(LRM)の台頭

OpenAIがリリースした次世代モデル「o1」は、一度の推論だけではなく、「考えを深める」「回答を見直す」などの過程を組み込むことで、従来の単一推論よりも高度な推論能力を発揮する“ラージ・リーズニング・モデル(LRM)”の代表的存在といわれています。
この流れを受けて、オープンソースコミュニティでも o1 的な推論プロセスを模倣・拡張するモデルが多数登場し、特に複雑な推論問題やオープンエンド質問への対応などで新たな可能性を示しています。
LRMがもたらす2つのインパクト
- 高トークンスループット向けハードウェアの開発促進
従来のLLMより多くのトークンを生成・レビューするLRMでは、推論に必要な計算量が増大します。こうした需要に応えるべく、AIアクセラレーターのさらなる進化が期待されます。 - 高品質な学習データ生成への貢献
LRMを使った自己生成データは、次世代のモデル開発を加速させる可能性があります。事実、一部ではOpenAIがo1を活用して次世代モデルのトレーニングデータを生成しているとの報告もあります。今後、合成データを活用した小規模で特化型のモデルが続々と生まれるでしょう。
企業が取るべきアクション
最先端のLRMを試す環境づくりが重要です。現状のLLMで不可能なことが、次世代のLRMで可能になるケースが増えてきます。
社内のPoCや研究チームを通じて、常にモデルの限界を探り、「もしこの制約が外れたらどんなサービスが実現できるか」を考える習慣をつけましょう。推論コストの下落とも相まって、まったく新しいビジネスチャンスに結びつくかもしれません。
3. トランスフォーマーを超える新アーキテクチャの進展

GPTシリーズなどで広く用いられているトランスフォーマーは、強力で汎用性が高い反面、その計算量とメモリ使用量が大きく、スケールが進むほど負荷も増大していきます。
そこで近年注目を集めているのが線形オーダーで処理できる新しいモデルです。代表的なものにステートスペースモデル(SSM)や、さらに計算コストを抑えられるリキッドニューラルネットワーク(LNN)があります。
新アーキテクチャの特徴
- 高速かつ効率的
計算複雑度が低く、トランスフォーマーのように入力長に比例して指数的にコストが増える問題を軽減できます。 - ハイブリッドモデルの登場
トランスフォーマーとSSMを組み合わせたモデルなどがリリースされ、精度面でも急速に進歩中です。
今のところ、最先端のトランスフォーマーモデルほどの性能には至らないものの、用途によっては「十分に使えるレベル」かつ「低コスト・高速推論」が強みとなるケースが増えています。
企業が取るべきアクション
- 軽量モデルの活用検討
企業内のプライベートな情報を取り扱うアプリケーションなどでは、クラウド環境にデータを送らず、オンプレミスで軽量モデルを動かすという選択肢が増えます。プライバシーやセキュリティが重要な業界では特に有効です。 - 将来的な転換を見据えた準備
今はトランスフォーマーが主流でも、新アーキテクチャが実用ラインを超えてくるのは時間の問題です。研究開発やPoC段階から、次世代アーキテクチャに目を向けておきましょう。
4. スケーリング則の変化と推論時間拡張への期待

これまで、大規模言語モデル(LLM)は「パラメータ数を増やす」「莫大なデータ量で学習させる」というアプローチで飛躍的な性能向上を遂げてきました。
しかし近年は、スケーリング則(モデルサイズや学習データ量の拡大)にも限界が見えはじめているとの議論が盛んです。実際、数百億〜数千億パラメータのモデルを超えると、性能向上が頭打ちになる“収穫逓減”が指摘されています。また、学習させるための高品質な大規模データ自体を調達するのも、ますます困難になりつつあります。
新たな方向性:推論時間拡張(Inference-time scaling)
そこで期待されるのが、先ほどのLRM的アプローチに代表される「推論時間に複数ステップで回答を改善する」方向性です。
モデルサイズや学習データ量ではなく、“その場”で思考を重ねることによって性能を引き出すというアイデアです。このアプローチは大型モデルだけでなく、より小型のモデルにとっても大きな進歩をもたらす可能性があります。
まとめ:2025年のAI活用は「準備」と「実験」がカギ

2024年の目覚ましい進化を経て、2025年のAIはさらに新しいフェーズへと入ろうとしています。推論コストが劇的に下がることで、AI活用の敷居が大きく下がる一方、LRMや新アーキテクチャの登場によって、今まで以上に複雑な課題を解決できる道が開かれるでしょう。
一方で、モデルサイズとデータ量を拡大するだけでは性能向上が望めないところまで来ており、“推論時間拡張”のような新たなアプローチが注目を浴びています。企業がこの転換期を乗り越えるには、最新動向にアンテナを張りつつ、PoCによる継続的な検証とITインフラの柔軟な再構築が欠かせません。
2025年のAIシーンで勝ち残り、さらなるビジネス成長を実現するためには、いまこそ挑戦と準備を始めるときです。
参考)4 bold AI predictions for 2025