CiscoやLangChainらが推進する「AGNTCY」の挑戦
AIがもたらす新たなイノベーションの波は、私たちのビジネスから日常生活にまで大きな変化を及ぼしつつあります。
しかし「AIエージェント同士は自由にやりとりできるのだろうか?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。意外にも、異なるAIモデル同士は通訳なくして会話できるような共通言語を持っているわけではありません。
本記事では、複数の企業が取り組むオープンかつ業界標準の枠組み「AGNTCY」を中心に、AIエージェント間のやりとりを円滑化する最新動向を解説します。これを読むことで、今後のAI導入をよりスムーズに進めるヒントや生産性向上の可能性を見出せるでしょう。加速するAI時代に乗り遅れないよう、一度確認してみませんか?
AGNTCYが目指す「AIエージェントのインターネット」
■ AIエージェント同士の連携が不可欠になる理由
AIエージェントの活用が進むにつれ、単体で業務やタスクをこなすだけでなく、異なる組織や企業が開発したエージェント同士が連携して情報をやり取りする場面が増えてきました。たとえば、ある企業のエージェントが在庫管理を担当し、別の企業のエージェントが配送の最適化を受け持つといったケースでは、双方がシームレスにコミュニケーションできることが理想的です。
ところが、エージェントの開発に使われる言語モデルやフレームワークが多種多様であるため、相互運用性(インターオペラビリティ)の確立が大きな課題となっています。
■ オープンソースの共同体「AGNTCY」とは
こうした課題を解決しようと、CiscoやLangChain、LlamaIndex、Galileo、Gleanなどの企業が中心となって発足したのが「AGNTCY」です。AGNTCYはオープンソースの枠組み(コレクティブ)として、業界標準となるエージェント間の通信言語・仕様を整備し、誰もが簡単にAIエージェントを相互連携できるようにすることを目指しています。
Ciscoのインキュベーション部門Outshiftを率いるVijoy Pandey氏は、この構想を「インターネットがTCP/IPやDNSによって世界中のサーバやPCをつないだように、AGNTCYがさまざまなAIエージェントをつなぐ“エージェントのインターネット”を実現する」と語っています。
■ 標準化の難しさと他の取り組み
AI分野は進化のスピードが非常に速く、モデルのアップデートやフレームワークのバージョン更新も頻繁に行われます。そのため、標準化は伝統的な産業以上にチャレンジングな作業です。しかし、LangChainが提唱するAgent ProtocolやAnthropicのModel Context Protocol (MCP)など、ほかにも標準化を目指す動きが存在し、AGNTCYはそれらとも連携しながら「どうすればエージェント同士が効率よく対話・協力できるか」を模索しています。
Galileoの共同創業者Yash Sheth氏は「標準化こそがエージェント導入のスピードを上げるカギになる」と強調。各組織が独自にインフラをゼロから開発していては、互いのシステムを連動させるまでに大きなコストや時間がかかってしまうからです。AGNTCYは、現時点で仕様やAPIを“拡張できる”形に整備し、開発者コミュニティが自然発生的に参加・貢献しやすい仕組みを整えることで、業界を横断した協力を狙っています。
■ 今後の展望
AGNTCYは単なるコード仕様の提供だけでなく、異なる企業や開発者が作成したエージェントを相互に“発見”し、“組み合わせ”て新たなサービスやワークフローを生み出せるプラットフォームとしても機能する構想です。これにより、企業は社内外のエージェントを組み合わせて柔軟に業務を自動化し、新たな価値を創造できる可能性があります。
もちろん、標準化が真に産業標準として定着するためには、多くのAI関連企業やエンジニアが参加する大規模なコミュニティづくりが不可欠です。AGNTCYは今後さらにメンバーを募り、多様な視点を取り入れながら規格をブラッシュアップしていく予定だといいます。将来的には、どんなエージェントも共通の言語で“会話”し合い、人間の介在を最小限に抑えた効率的なコラボレーションが実現するかもしれません。
まとめ
AIエージェントの連携が当たり前になる近未来では、互いに異なるバックエンドやモデルを用いていてもスムーズに協働できる枠組みが欠かせません。AGNTCYは、まさにその要となる標準仕様をオープンソースで整備し、多くのプレイヤーを巻き込みながら「エージェントのインターネット」を実現しようとしています。今後の発展次第では、業界全体のAI活用度やスピードを大きく左右する存在になり得るでしょう。