“AIツールは使えない”が常識だった企業が、なぜDifyに殺到しているのか?

AI活用ブログ
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リコー、NTTデータが選んだ「AI民主化」プラットフォームの正体

「AIを使いたいけど、機密情報が漏れるリスクが怖い」──多くの日本企業が抱えるこのジレンマに、いま一つの解が示されています。それが、オープンソースのAI開発プラットフォーム「Dify」です。リコー、NTTデータ、伊藤忠テクノソリューションズといった日本を代表する企業が、このプラットフォームを自社のAI戦略の中核に据え始めています。

驚くべきは、彼らが単なる「ユーザー」に留まらず、「販売パートナー」として顧客への提供も開始している点です。この記事では、なぜ厳格なセキュリティポリシーを持つ日本企業がDifyを選び、どのように工数削減96%という圧倒的な成果を生み出しているのか、その全貌を解き明かします。


最近「社外に出せないデータで生成AIを使いたい」という相談をいただきます。ChatGPTの利用は社内で禁止されているそうです。セキュリティやコスト面が気になる企業には、社内のローカル環境で動かせる仕組みがあることはご存知ですか?
OpenAIのオープンなAIモデル「gpt-oss」も利用いただけます。

日本企業が抱える「AI活用の二律背反」

セキュリティか、生産性か──二者択一を迫られてきた現場

日本企業のAI活用が思うように進まない背景には、明確な理由があります。それは「データを外に出せない」という厳格なセキュリティポリシーです。金融、製造、公共分野の大手企業にとって、ChatGPTのようなパブリックAIサービスに機密情報を入力することは、コンプライアンス上許されません。

しかし、セキュアなオンプレミス環境でAIを構築しようとすると、今度は高度な専門技術が必要になります。慢性的なIT人材不足に悩む日本企業にとって、これは大きなボトルネックでした。つまり、「セキュリティを取れば生産性が犠牲になり、生産性を取ればセキュリティが犠牲になる」という、まさに二律背反の状況に陥っていたのです。

Difyが解決した「不可能」

Difyが日本市場で爆発的に受け入れられている理由は、この二律背反を一つのプラットフォームで同時に解決したことにあります。オンプレミス環境に構築できるため、データは完全にクローズドな自社環境内に留まります。同時に、ノーコード/ローコードの直感的なインターフェースにより、プログラミング知識を持たない現場担当者でも、高度なAIアプリケーションを構築できる「AI市民開発」を実現しました。


リコーの「二重戦略」が示す新しいAI活用の形

まず自社で使い、その後パートナーになる

リコーの取り組みは、日本企業のDify活用を象徴する事例です。同社は2024年11月、社内でDifyを活用した「AI市民開発」の実践を開始しました。現場社員が自らAIアプリケーションを開発し、業務効率化を進める取り組みです。

注目すべきは、その後の展開です。わずか1ヶ月後の12月、リコーはDifyの「公式販売・構築パートナー」契約を締結しました。つまり、自らが「ユーザー」として効果を実証した後、今度は「販売者」として顧客に提供する立場になったのです。

自社製LLMとの組み合わせで完全クローズド環境を実現

リコーのソリューションの最大の強みは、Difyと同社が開発したオンプレミスLLM(700億パラメータ)を組み合わせて提供できる点にあります。これにより、顧客はAIの「頭脳」(LLM)と「神経系」(Difyワークフロー)の両方を、完全にクローズドな環境で導入できます。

「我々自身が全社で使っており、安全と効果を実証済みです」というメッセージは、日本企業が最も重視する「実績」と「信頼性」を体現しています。この戦略は、単なるリセラー(再販業者)とは一線を画す、高度な差別化要因となっています。


大手SIerが本気で取り組む理由

CTCが掲げた「3年で30億円」の意味

伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は2025年10月、Dify Enterpriseの提供開始を発表しました。特筆すべきは、「3年後に30億円の売上を目指す」という具体的な数値目標です。

大手SIerが特定のミドルウェア製品に対して、ここまで明確な売上目標を公言することは極めて異例です。なぜなら、SIerのビジネスモデルは、ライセンス販売ではなく、システム構築と運用保守で大きな売上を上げる構造だからです。

30億円という目標の背景には、Difyを基盤とした大規模なインテグレーション案件の受注を多数見込んでいることがあります。ノーコード/ローコードであるDifyは、PoCから本番稼働までの開発速度が飛躍的に向上します。この「スケーラビリティ」こそが、強気な目標の根拠となっているのです。

NTTデータとJECが共同設立した「Dify協会」の戦略的意義

さらに注目すべきは、2025年に発表された「一般社団法人Dify協会」の設立です。この協会は、Dify開発元のLangGeniusだけでなく、日本のITインフラを長年支えてきたNTTデータと日本電子計算(JEC)との3社共同で設立されています。

協会のミッションには「日本固有の品質基準と認証の推進」が掲げられており、単なるユーザーコミュニティではありません。むしろ、Difyを日本市場におけるエンタープライズAI開発の「デファクトスタンダード(事実上の標準)」として位置づけ、その信頼性と品質を公的に担保するための、高度に戦略的な組織といえます。


驚異のROI:工数削減90%超の実例

FLINTERSが公表した3つの衝撃的な成果

電通・セプテーニグループの株式会社FLINTERSは、Difyを活用した社内業務改革の具体的な成果を公表しています。

事例1:マーケティング戦略策定 従来数日を要していた市場リサーチと資料作成業務で、96%の工数削減を達成しました。Difyエージェントが、Webからの情報収集、YouTubeコメント分析、ペルソナ・SWOT・競合分析を自動実行し、最終的にGoogleスライド形式で資料を自動生成します。

事例2:請求書データ化 経理部門で毎月手作業で行っていた請求書のデータ入力業務は、1件あたり2時間かかっていました。DifyとAI-OCRを連携させたアシスタントにより、これがわずか6分に短縮されました。約95%の工数削減に相当します。

事例3:口コミ分析 Googleマップ上の店舗口コミの収集・分析業務では、98%の工数削減を実現しました。

ヘルプデスク業務で問い合わせが57%減少

ある日本の製造業では、AIによる問い合わせ自動応答システムの導入により、問い合わせ総数が月間650件から370件に減少しました(57%削減)。別の企業では、月間1,700件の問い合わせ業務で、手動ワークロードを最大90%削減することに成功しています。

これらの数字が示すのは、AIが人間の「アシスタント」に留まらず、特定の定型業務を完全に「代替」するレベルに達しているという事実です。


Difyが実現する「AIエージェント」の真価

RAGを超えた自律的なワークフロー

Difyの真価は、単なるRAG(検索拡張生成)を超えた「AIエージェント」機能にあります。FLINTERSの事例が示すように、情報収集→分析→ラベリング→資料生成という複数のステップを、AIが自律的に実行します。

これは、Difyが提供する視覚的なワークフロービルダーによって実現されています。ドラッグ&ドロップの操作だけで、複雑なAIエージェントを構築できるため、現場に近いIT部門でも開発が可能です。

エコシステム戦略の巧みさ

Difyの日本市場での成功は、製品力だけでなく、巧みなエコシステム戦略によって支えられています。2025年2月には日本法人「LangGenius K.K.」を東京・日本橋に設立し、日本市場への強いコミットメントを示しました。

同年10月に開催された「IF Con Tokyo 2025」では、リコー、NTTデータ、日本電子計算、TDSEといった日本のIT業界を代表する企業がダイヤモンドスポンサーとして参加しました。これは、Difyがすでに日本の主要ITベンダーと緊密なパートナーシップを形成していることの証左です。


今後の展望:AI基盤インフラとしての地位確立

Difyは、信頼の醸成(リコーのようなユーザー兼パートナー)、規模の確立(大手SIerの販売網)、標準化(Dify協会による公的な位置づけ)という多層的なアプローチによって、単なる一過性のツールではなく、日本企業のAI活用における「基盤インフラ」へと進化しています。

今後は、RPA、AI-OCR、既存の基幹システムと連携した、より複雑なAIエージェントによる業務プロセスの自動化が加速すると予測されます。セキュリティの壁をクリアし、AIの民主化を実現する現実的なプラットフォームとして、Difyの導入はさらに加速していくでしょう。

日本企業のDX推進において、Difyは「使ってみたいツール」から「なくてはならない基盤」へと、その位置づけを確実に変えつつあります。

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会社ではChatGPTは使えない?情報漏洩が心配?

ある日本企業に対する調査では、72%が業務でのChatGPT利用を禁止していると報告されています。社内の機密情報がChatGPTのモデルに学習されて、情報漏洩の可能性を懸念しているためです。

そのため、インターネットに接続されていないオンプレミス環境で自社独自の生成AIを導入する動きが注目されています。ランニングコストを抑えながら、医療、金融、製造業など機密データを扱う企業の課題を解決し、自社独自の生成AIを導入可能です。サービスの詳細は以下をご覧ください。

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監修者:服部 一馬

フィクスドスター㈱ 代表取締役 / ITコンサルタント / AIビジネス活用アドバイザー

非エンジニアながら、最新のAI技術トレンドに精通し、企業のDX推進やIT活用戦略の策定をサポート。特に経営層や非技術職に向けた「AIのビジネス活用」に関する解説力には定評がある。
「AIはエンジニアだけのものではない。ビジネスにどう活かすかがカギだ」という理念のもと、企業のデジタル変革と競争力強化を支援するプロフェッショナルとして活動中。ビジネスとテクノロジーをつなぐ存在として、最新AI動向の普及と活用支援に力を入れている。

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