AIは国家の石油になるか?世界で激化する「AIインフラ投資」競争と日本の未来

AI活用ブログ
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見えない「AI自給率」クライシス:安全保障から子供たちの常識までを問う

突然ですが、皆さんは最近、サウジアラビアやUAEといった国々が、AIインフラに天文学的な額を投じているニュースを目にしたでしょうか。彼らは石油マネーを原資に、文字通り国の未来をAIに賭けようとしています。これは単なる技術投資の話ではありません。実は、この動きは私たち日本の社会や、さらに言えばこれからを生きる私たちの子供たちにまで、想像以上に深く関わってくる、見過ごせない「国家の課題」 を突きつけているのです。

AIが電力やインターネットのように、社会にとってなくてはならない基盤になろうとしている今、「AIをどこに頼るか」という選択が、かつて石油の輸入が止まって国家が窮地に陥ったように、国の安全保障や、私たちの言語、文化、そして子供たちの「常識」そのものにまで影響を及ぼす可能性があるとしたら?

本稿では、世界で加速するAIインフラ投資の現状から、それが日本にもたらす安全保障上のリスク、「AI自給率」という新たな視点、そしてAIが子供たちの「常識」形成に与えるであろう文化的影響まで、複雑に絡み合う論点を深く掘り下げていきます。この記事を通じて、AIがもたらす変化の本質と、私たちが今、真剣に考えるべき問いについて、新たな視点を得られるでしょう。


最近「社外に出せないデータで生成AIを使いたい」という相談をよく聞きます。ChatGPTの利用は社内で禁止されているそうです。セキュリティやコスト面が気になる企業には、社内のローカル環境で動かせる仕組みがあることはご存知ですか?

世界で加速する「国家のAI投資」競争

今、世界の複数の国々が、AIインフラの構築に巨額の資金を投じ始めています。その代表例が、中東の石油大国サウジアラビアです。サウジのモハメッド・ビン・サルマン王子は、国家が保有する約140兆円(9400億ドル)の投資ファンドを活用し、AIインフラを構築する国家プロジェクト「Humane」を立ち上げると発表しました。この投資の最大の目的は、将来への備えです。サウジ経済は長らく石油輸出に支えられてきましたが、石油はいつか枯渇します。そのため、石油で得た富を将来のための投資に振り向け、石油に代わる新たな産業基盤を築こうという戦略の一環なのです。サウジは既に、2030年までに150兆円(1兆ドル)を超える非石油分野のインフラ投資を行うことを宣言しており、今回のAIインフラ投資も、その壮大な計画の一部と位置づけられています。AIが世界経済の重要な役割を担うことは明らかであり、国内に強固なAIインフラを持つことで、将来的に外貨を獲得しようという目論見があるのです。

同様の動きは、隣国のアラブ首長国連邦(UAE)でも見られます。UAEでは、米国内でAIインフラ投資プロジェクト「Stargate」を進めるOpenAI、ソフトバンク、Oracleに加え、Nvidia、Cisco、地元のG42といった名だたる企業が参加して、「Stargate UAE」と呼ばれるAIインフラプロジェクトが立ち上がっています。さらに、ヨーロッパ連合(EU)もAIインフラに対して2000億ユーロという巨額の投資を決定しており、これで少なくとも米国や中国といったAI大国以外にも、サウジアラビア、UAE、そしてヨーロッパという三つの地域に大規模なAIデータセンターが構築されることになります。これらの国々がAIデータセンターに注力する理由は、単にそれらが将来的に大きな収入源となるという経済的な側面だけではありません。AIは電力やインターネットと同様に、私たちの経済活動や社会生活にとって不可欠な社会インフラとなりつつあり、その基盤を100%外国に依存することには、国家の安全保障上、極めて大きなリスクが伴うからです。これは、技術覇権争いという側面だけでなく、国家の存立に関わる問題として捉えられていることを示唆しています。

「AIインフラ依存」がもたらす安全保障リスク

AIが現代社会にとって不可欠なインフラとなりつつある中で、その基盤を海外に完全に依存することには、看過できない安全保障上の脆弱性が存在します。これは、過去の日本の経験に照らし合わせると、より明確に理解できます。第二次世界大戦に突入する過程で、日本は他国からの経済制裁により石油の輸入が困難となり、極めて厳しい状況に追い込まれました。海外からの石油供給が途絶えることで社会活動が麻痺するという、深刻な脆弱性を抱えていたのです。もし将来、日本の社会や経済がAIインフラに深く依存するようになったにもかかわらず、その基盤が海外に100%置かれているとしたら、かつて石油で経験したのと全く同じ種類の脆弱性を抱えることになります。海外のAIインフラにアクセスできなくなったり、利用が制限されたりした場合、社会全体が機能不全に陥るリスクがあるのです。

もちろん、「米国は日本の同盟国だから、そこまで心配する必要はないのではないか」と考える人もいるでしょう。しかし、これは戦後長らく続いてきた日本の米国に対する従属関係を、AIという新たな領域においてさらに強固なものにしてしまうという側面も持っています。つまり、AIインフラを米国に完全に依存することで、国際社会や二国間関係において、日本が米国に対して持つ発言力がさらに弱まる可能性があるのです。この問題を分かりやすく表現するならば、「AI自給率」という概念に行き着きます。食料自給率のように、社会を維持するために不可欠なインフラやサービスを、どの程度国内で賄えているかという指標として、AI自給率を考えることができます。AIインフラの海外依存度が高いということは、AI自給率が低いということであり、それはそのまま国家の脆弱性の高さにつながるのです。安全保障という観点から見れば、基幹インフラを海外に依存することは、常にリスクを伴います。

見えない浸食?AIが操る「常識」と「文化」

AIインフラを海外に依存することがもたらすリスクは、単に物理的なアクセスや安全保障の問題に留まりません。さらに深く、私たちの言語や文化そのものが、海外の影響下に置かれてしまうという側面があります。特に、これからの世代、つまり今の子供たちが、AIとどのように接し、そこから何を学ぶかという点は、極めて重要です。将来的には、多くの子供たちがAIチューターから様々な知識やスキルを学ぶようになることは、ほぼ間違いありません。学校教育の現場だけでなく、家庭学習においても、AIが先生役を務める場面が増えるでしょう。その過程で、子供たちがAIを通じてどのような文化的影響を受けるか、私たちはまだその全容を理解していません。

日本には、長い歴史の中で培われてきた独自の価値観や常識が数多く存在します。それは、「悪いことをすれば、それはいつか自分に返ってくる」といった倫理的な考え方から、「ご飯を炊くときの水加減はものすごく大切だ」といった日常生活や食文化に関わるものまで、千差万別です。これからの子供たちは、こうした日本独自の、あるいは家庭ごとの常識の多くを、親や先生だけでなく、AIとの対話の中から学んでいくことになる可能性があります。そのAIが、もし米国の営利企業であるOpenAIが運営するChatGPTのようなモデルだった場合、彼らが提供する情報や価値観、あるいは暗黙のうちに含まれる文化的バイアスが、子供たちの常識形成に大きな影響を与えることになります。そのプロセスを通じて、日本独自の常識や価値観が徐々に失われてしまったり、変質してしまったりして良いのか、という問いに、私たち大人は答えを見つけ出す責任があるのです。これは、単に技術導入の是非を論じるのではなく、文化やアイデンティティの継承といった、より根源的な問題を含んでいるのです。

国産か、オープンソースか、それとも…?「AI教育」という難問

子供たちがAIから多くのことを学ぶ未来において、彼らにどのようなAIを提供すべきかという問題は、極めて難しい問いを私たちに突きつけています。特に、公教育の現場にAIを導入する段階においては、慎重な検討が必要です。著者は、単純な国粋主義的な立場から「日本も国産LLM(大規模言語モデル)を作るべきだ」と主張する立場ではないとしながらも、子供たちの教育に関わるAIについては、あるべき姿を模索しています。一つの現実的な選択肢として考えられるのは、完全にゼロから国産モデルを開発するのではなく、オープンソースのLLMに、日本独自の文化や価値観、教育方針などを反映させるための適切なファインチューニング(追加学習や調整)を施したモデルを活用することではないか、という考え方です。これにより、ある程度制御された環境で、日本の教育に即したAIを提供できる可能性があります。

しかし、この問題に政府が深く関与してくることには、大きな注意が必要であると著者は指摘します。もし時の政権に、子供たちが日常的に触れるAIをコントロールする力を与えてしまった場合、極めて危険な状況が生まれかねません。具体的には、「日本軍は悪くなかった」といった歴史観や、「夫婦別姓は認めるべきではない」といった特定の社会制度に関する、政権にとって都合の良い一方的な情報を、子供たちに「常識」として植え付けることが可能になってしまうからです。これは、子供たちの健全な批判的精神や多様な価値観を育む上で、極めて有害な影響を及ぼす可能性があります。結局のところ、私たちは、米国の営利企業が経営するAIに、子供たちの常識や価値観の形成を委ねるのか、それとも日本の保守政権が自国の都合に合わせてコントロールする可能性のあるAIを選ぶのか、という、どちらも困難で厄介な選択肢を突きつけられる時代に来ようとしているのかもしれません。

AIインフラ投資が示す、国家の複雑な宿題

サウジアラビアやUAE、そして欧州が巨額の資金を投じてAIインフラを構築する動きは、AIが単なる技術トレンドではなく、電力やインターネットに並ぶ国家の基盤となるべきインフラとして認識され始めていることを明確に示しています。そして、その基盤を海外に依存することの危険性も同時に浮き彫りにしています。国家の安全保障、「AI自給率」という新たな視点、そしてAIがもたらす文化的・社会的な影響、特に次世代の「常識」形成への関与 など、AIインフラ投資は多くの複雑な問題を内包しています。

これらの論点を踏まえると、単に「日本も他国と同様にAIインフラ投資をすべきだ」とか、「日本も国産LLMを作るべきだ」といった、短絡的な結論に飛びつくことはできません。そこには、国家の安全保障と国際関係、経済的な自立と技術的な競争力、そして何よりも、将来を担う子供たちの教育と文化の継承といった、多岐にわたる要素が絡み合っています。私たちは今、国家として、そして社会全体として、AIという強力な技術とどのように向き合い、どのような未来を志向するのかを、真剣に考え抜く責任を負っています。世界の動きに目を凝らしつつ、AIがもたらす複雑な課題に対して、安易な答えを求めず、多角的な視点から議論を深めていく必要があるでしょう。


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監修者:服部 一馬

フィクスドスター㈱ 代表取締役 / ITコンサルタント / AIビジネス活用アドバイザー

非エンジニアながら、最新のAI技術トレンドに精通し、企業のDX推進やIT活用戦略の策定をサポート。特に経営層や非技術職に向けた「AIのビジネス活用」に関する解説力には定評がある。
「AIはエンジニアだけのものではない。ビジネスにどう活かすかがカギだ」という理念のもと、企業のデジタル変革と競争力強化を支援するプロフェッショナルとして活動中。ビジネスとテクノロジーをつなぐ存在として、最新AI動向の普及と活用支援に力を入れている。

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