今回ご紹介するのは、Googleが米国で先行導入するAIショッピング機能。AIが商品検索から比較、価格追跡、さらには店舗への問い合わせや購入手続きまでを自動でこなしてくれるという、まさに「次世代の買い物体験」です。
AIショッピングが私たちの日常生活や消費行動をどう変えるのか、そのメリットや懸念点、今後の展望までを紹介します。
Googleが進めるAIショッピングの全貌
Googleは2025年11月、米国ユーザー向けにAIをフル活用した新たなショッピング機能の提供を開始しました。従来のネット通販では、検索キーワードを工夫したり、無数の商品を比較したり、価格の変動を日々チェックしたりするのが当たり前でした。しかし、Googleはこうした煩雑な作業をAIに任せることで、ユーザーの買い物体験そのものを根本から変えようとしています。
具体的には、AIによる会話形式の検索機能が大幅に強化され、「どんな商品がほしいか」を自然言語で伝えるだけで、50億点にも及ぶ商品データベースから最適な提案を受けられます。
AIショッピングの具体例
たとえば「パンツやドレスに合う女性用セーターが欲しい」と入力すれば、AIが条件に合う商品を一覧で提示。さらに「グレー系でもっと選択肢が欲しい」といった追加リクエストにも即座に対応し、画像カードや比較表の形で分かりやすく情報を整理してくれます。
各商品ごとに価格履歴や在庫状況も確認でき、広告（スポンサードリスティング）も混在することで、リアルタイムな市場動向も把握しやすくなっています。
このAIショッピング機能は、Google検索だけでなく、同社のAIアプリ「Gemini」にも順次展開される予定です。これにより、従来の「検索→比較→購入」という一連の流れが、より直感的かつパーソナライズされたものへと進化しつつあります。
「Let Google Call」――AIが店舗に電話をかける時代
ネットショッピングの最大の弱点は、「今この商品が店頭にあるのか」「値引きやセール情報は？」といったリアルタイムな情報を得にくい点でした。これまでなら、ユーザー自身が電話をかけて問い合わせるしかありませんでしたが、Googleはこの手間すらAIが肩代わりする新機能「Let Google Call」を打ち出しました。
この機能は、ユーザーが指定した商品や要望をAIに伝えると、AIエージェントが自動で近隣店舗に電話をかけ、在庫や価格、プロモーション情報を問い合わせます。AIであることは店舗側に明示され、店舗はロボットからの問い合わせを拒否することも可能です。通話後には、得られた情報がテキストやメールでユーザーに送られる仕組みです。まずは玩具、ヘルス＆ビューティー、家電といった分野から米国で順次展開されます。
この「AIによる代理問い合わせ」は、買い物の効率化だけでなく、人間が煩わしさを感じやすい作業からの解放も意味します。たとえば、複数の店舗に同じ内容で連絡し、最も条件の良い店を比較検討する――こうした作業はAIが得意とする分野です。今後は予約、在庫確保、特別なリクエストなど、さらに高度な「AIエージェントによる交渉」も期待できるでしょう。
AIエージェントが「購入」まで自動化――エージェンティックチェックアウトの衝撃
Googleが提案するAIショッピングの極めつけが、「エージェンティックチェックアウト」と呼ばれる自動購入機能です。ユーザーは欲しい商品とその条件（色やサイズ、希望価格など）を設定しておくだけ。AIはその条件をもとに商品を追跡し、希望価格を下回るタイミングでユーザーに通知。承認を得るとGoogle Payを利用して購入手続きを完了します。
この機能はまず、WayfairやChewy、Quince、Shopify参加店舗などの主要ECサイトで展開されます。ユーザーは「安くなったら教えて」「今すぐ買いたい」といった柔軟な指示をAIに出すことができ、価格変動を見逃すことなく、最適なタイミングで買い物を楽しめるのです。
これにより、従来のように「毎日セール情報をチェックする」「購入手続きで入力ミスを心配する」といった負担が大幅に軽減されます。特に、年末商戦やブラックフライデーなど価格変動が激しい時期には、AIエージェントの真価が発揮されるでしょう。一方で、「本当にAIに全て任せて大丈夫なのか」「プライバシーや決済の安全性は？」といった懸念も生まれています。Googleはこうした声に配慮し、最終的な購入の意思確認やセキュリティ面の強化を進めています。
既存の買い物スタイルとAIショッピングの共存は可能か
GoogleのAIショッピング機能は、単なる「便利なツール」にとどまらず、消費者の購買行動そのものを変革する可能性を持っています。従来、商品選びは「知人の口コミ」「専門家のレビュー」「インフルエンサーの推奨」など、さまざまな情報源を横断的に参照しながら行われてきました。特に若年層を中心に、TikTokやInstagramといったSNSでの情報収集が主流となりつつあります。
しかし、GoogleのAIショッピングは、こうした「情報の海」をAIが整理・分析し、個々のニーズに最適化した提案をしてくれる点で画期的です。実際、Googleは記者向けのデモで「冬の乾燥肌用保湿クリーム」という検索例を紹介。AIが即座に複数の製品をピックアップし、比較表や詳細情報を提示する様子は従来の口コミサイトやSNS検索とは一線を画します。
とはいえ、AIが完全に人間の直感や「偶然の出会い」を代替できるかは未知数です。AIはあくまで既存のデータベースやネット上の情報をもとに提案するため、「友人からのリアルな体験談」や「店舗で直接手に取る感動」とはまた異なる価値観が存在します。
今後は、AIショッピングと従来型ショッピングの“ハイブリッド”な利用が一般的になるでしょう。たとえば、AIで候補を絞り込み、最終決定は自分自身で――そんな使い方が現実的です。
AI時代のショッピング、私たちの生活はどう変わるのか
AIショッピングが普及することで、私たちの消費行動や生活スタイルはどのように変化するのでしょうか。まず、最大の変化は「時間の節約」と「ストレスの軽減」です。これまで膨大な選択肢に圧倒されていたユーザーは、AIのサポートにより自分に最適な商品を効率よく見つけられるようになります。加えて、価格比較や在庫確認、購入手続きなどの面倒な作業が自動化されることで、買い物に費やす労力が飛躍的に減少します。
一方で、「AIに全てを委ねることのリスク」も無視できません。AIの判断基準はあくまでアルゴリズムとデータに基づいているため、必ずしもユーザーの“本当の満足”に直結しない場合もあります。また、AIを介した購買行動が一般化すれば、企業側も「AI向けSEO」「AIに好かれる商品設計」など新たな戦略を迫られるでしょう。中長期的には、購買データのプライバシーや広告表示の透明性、AIによる意思決定の責任問題など、社会的な議論も活発化するはずです。
消費者としては、AIの便利さを享受しつつも、「自分の目で見て確かめる」「時には自分で調べる」といった能動的な選択も大切にしたいところです。AIショッピングはあくまで補助輪――主導権は自分にある、という意識が今後ますます重要になるでしょう。
まとめ：AIがもたらす新しい買い物体験の価値
Googleが導入したAIショッピング機能は、単なる技術革新にとどまらず、消費者の購買体験そのものを大きく変えつつあります。AIによる検索や比較、代理問い合わせ、さらには自動購入まで――これまで煩雑だったプロセスが一気にシームレスになり、「欲しいものが、欲しい時に、最適な形で手に入る」時代が到来しようとしています。
もちろん、AIに全てを任せることへの不安やリスクも存在します。しかし、これらの新機能を上手く活用することで、私たちはより効率的で納得感のある買い物を実現できるはずです。AIショッピングは、情報過多や選択疲れに悩む現代人にとって、強力な“味方”となるかもしれません。今後もテクノロジーの進化に目を凝らし、上手に付き合っていくことが、賢い消費者への第一歩と言えるでしょう。
