経理部門は請求書処理や経費精算、月次決算、監査対応など、正確さが求められる業務を限られた人員で回し続ける必要があります。その結果、確認や差し戻しに追われ、作業が属人化しやすいのが現実です。業務を自動化したくても、例外対応が多く、結局は人が手を動かす場面が残りやすいという悩みもあります。
こうした課題に対して、ChatGPTやGeminiといった生成AIは、判断を代替するのではなく、情報整理と下書きの工程を効率化する手段として力を発揮します。証憑の要点抽出、仕訳検討の論点整理、差し戻し文面のテンプレ化、月次コメントの下書き、監査対応の想定問答づくりなど、経理の現場で負担になりやすい作業を軽くできます。本記事では、経理部門で実践しやすいAI活用事例と、すぐ使えるプロンプト例、運用で失敗しないための考え方をまとめて紹介します。
第1章 経理部門でAI活用が効きやすい理由

経理部門の業務は、数字そのものよりも、数字にひもづく情報を集めて整える作業に時間が取られがちです。請求書や領収書、メール、社内規程、Excelなど、材料が多く散らばるほど確認と手戻りが増えます。生成AIはこの整理工程に強く、業務改革の入口として相性が良いです。
1 文書と情報の整理が多い
経理は、証憑の読み取り、必要項目の抜き出し、要点の要約、関係者への共有など、文章と情報の整理が連続します。ChatGPTやGeminiの調査と要約でレポート作成時間を4時間から30分ほどに短縮した事例もあり、情報収集と要約が大きな負担になっている業務では効果が出やすいです。
2 ルールが明文化されている
経理には社内ルールや規程、運用手順があり、正解が文章で定義されている領域が多いです。こうした資料をAIに読み込ませ、FAQ化や音声解説として展開することで、理解と共有を楽にした例があります。
同じ発想で、経費精算ルールや勘定科目の判断基準、締め作業の手順をまとめれば、属人化の解消と引き継ぎの短縮につながります。
3 手作業が残る工程がボトルネックになりやすい
経理業務は半自動化されていても、途中に手作業が残っていることが多いです。子会社向けの請求書自動発行スクリプトに手作業が残っていたケースでは、ChatGPTやGeminiにコードを読ませてレビューと改善を行い、処理手順を3割削減し、手作業も自動化できたとされています。
経理でも、データ整形、添付ファイル確認、メール作成、差し戻し連絡などに同種の改善余地が見つかりやすいです。
4 問い合わせ対応とナレッジ共有が多い
経理は社内からの問い合わせが集中しやすく、同じ質問に何度も答えることで時間が消えます。膨大な社内規程やマニュアルをAIが案内する相談チャットを用意し、資料を探す手間を減らして業務の滞留を防いだ例があります。
経理でも、経費精算の基準、証憑要件、支払締め、請求処理の手順などをナレッジ化すると効果が出やすいです。
5 AIは判断ではなく下書きと整理に使うと強い
経理は正確性と証跡が重要です。だからこそ、AIに任せるのは判断ではなく、要約、分類、文面作成、チェック観点の抽出、手順の見える化といった下準備が中心になります。最終確認は人が行う前提にすると、品質を落とさずにスピードだけ上げやすくなります。
第2章 経理のAI活用マップ

経理部門で生成AIが効くポイントは、判断そのものよりも、前後の整理工程にあります。入力から出力までを分解して見える化すると、どこから着手すべきかがはっきりします。
1 入力 何をAIに渡すと効果が出るか
経理で扱う情報は、請求書や領収書などの証憑だけではありません。メール、申請文、社内規程、運用メモ、月次の振り返りコメントなど、文章と資料が混ざります。こうした情報は、AIにとって要約や整理の素材になりやすいです。
たとえば、ネット上の口コミ収集と要約をAIに任せ、レポート作成時間を4時間から30分ほどに短縮した例があります。要点抽出と整理が負担になっている領域では、同じ発想がそのまま転用できます。
2 処理 経理の現場で価値が出るAI処理
AIが得意なのは、情報を分けて整えることです。経理に落とし込むと、主に次の処理が核になります。
- 要約 量の多い文章を短くして共有しやすくする
- 分類 申請や問い合わせをパターン別に振り分ける
- 抽出 証憑から必要項目だけを抜き出す
- ひな形化 差し戻し文面や依頼文をテンプレに寄せる
- 手順化 作業フローをチェックリストに落とす
- 改善 既存の手順やスクリプトのムダを見つける
実際に、既存スクリプトをAIに読み込ませてレビューと改善を行い、処理手順を3割削減し、担当者の手作業も自動化できた事例があります。経理でも、締め作業の段取りやデータ整形など、似た改善余地が見つかりやすいです。
3 出力 何が成果物になるか
経理部門でのAI出力は、完成品よりも下書きやたたき台が中心です。代表例は次の通りです。
- 仕訳のたたき台と確認ポイントの列挙
- 差し戻しメールや追加提出依頼の文面
- 月次レポートの文章部分 要因整理と要約
- 監査対応用の想定問答と確認観点
- 経費精算や支払処理のチェックリスト
- 規程やマニュアルの要点まとめとFAQ
さらに、作った成果物を社内生成AIやNotebookLMに読み込ませて共有し、ナレッジを広げられた例もあります。単発の効率化で終わらせず、資産化して使い回せる形にすると、効果が積み上がります。
4 運用 ナレッジ共有と問い合わせ削減の型
経理は社内からの問い合わせが多い部門です。ここにAIを置くと、繰り返し対応の負荷を落とせます。膨大な社内規程やマニュアルをAIが案内する相談チャットを公開し、ちょっとした疑問が即座に解消され、業務の滞留を防いだ例があります。経理でも、経費精算ルールや証憑要件、締め日、申請の差し戻し理由などを優先して整えると効きやすいです。
5 自動化 データ整形と可視化にもAIを使う
経理の改善は文面作成だけではありません。データの加工と共有設計にも効きます。ChatGPTやGeminiと対話しながら、複雑なCSVを加工して部署別に情報を自動抽出し、権限管理されたシートへ展開した事例があります。経理でも、支払予定、請求一覧、差し戻し状況などの可視化で同じ型が使えます
第3章 経理部門のAI活用事例7選 業務別に効く使いどころ

ここからは、経理の現場でそのまま転用しやすい形で、ChatGPTとGeminiの活用事例を7つに整理して紹介します。ポイントは、AIに判断を任せるのではなく、整理と下書きを任せて人が最終確認する設計にすることです。
事例1 請求書や領収書の内容を要約し 必要項目を抜き出す
請求書の金額や支払期限、取引先名、明細の要点などを先に整えるだけで、その後の確認が速くなります。AIが処理しやすい形に整える発想は、スプレッドシートや資料をそのまま入力して変換の手間を減らす考え方とも相性が良いです。
使い方はシンプルで、証憑の文章を貼り付けて、必要項目の抽出と要約を依頼します。数字の正確性は必ず人が突合します。
事例2 仕訳のたたき台を作り 判断ポイントだけ人が確認する
仕訳は最終判断が重要なので、AIには答えを決めさせず、候補と判断論点の整理をさせます。たとえば、勘定科目の候補、確認すべき証憑、社内ルールの該当箇所などを先に並べるだけで、確認の往復が減ります。
事例3 経費精算の差し戻しをテンプレ化し 手戻りを減らす
差し戻しは文章作成と確認に時間が取られます。よくある不備パターンをAIで分類し、差し戻し文面をテンプレ化すると、毎回ゼロから書かずに済みます。定型作業をAIに任せつつ、イレギュラーにも柔軟に対応するという考え方は、申請ワークフローにLLMを組み込んで効率化した事例と同じ方向性です。
事例4 支払依頼や取引先対応メールを 下書きで高速化する
支払遅延の連絡、確認依頼、必要書類の再送依頼などは、丁寧さと漏れのなさが求められます。AIに文面の下書きを作らせ、経理として必要な確認事項だけを追記する形にすると品質を保ったまま速くなります。メールをAIで要約して見落としを減らす発想も、経理の受信トレイ整理や支払関連メールの一次整理に転用しやすいです。
事例5 月次レポートの文章部分を 要因整理から下書きする
月次資料は数字の集計だけでなく、前年差や着地見込みの説明文に時間がかかります。AIに、要因の候補を列挙させて論点を整理し、文章の骨格まで作らせると、担当者は根拠確認と表現調整に集中できます。過去情報を踏まえて論点やリスクを洗い出し、アジェンダを改善した事例のように、散らばった情報の整理が得意です。
事例6 監査対応の想定問答と 根拠の当たり先を整備する
監査対応は、想定質問の整理と根拠資料の案内が鍵です。AIに規程やマニュアルを読ませ、想定問答と確認観点を作ると、属人化が減り、対応スピードが上がります。膨大な規程やマニュアルを学習させた相談AIチャットで、社内のちょっとした疑問を即解消し、業務の滞留を防いだ例もあります。経理でも、経費精算基準や証憑要件、締め日ルールを優先して整備すると効果が出やすいです。
事例7 経理マニュアルと運用ナレッジを整備し まずAIに聞く状態を作る
引き継ぎのたびに起きる質問や、同じ問い合わせの繰り返しは、ナレッジ化で減らせます。AIを新人目線で使い、資料を分かりやすく整えるという進め方は、規程をAIに理解させて相談窓口として公開した例と同じです。経理では、締め作業の手順、差し戻し基準、例外処理、よくある質問をまとめ、検索と回答ができる状態にしていくのが王道です。
第4章 すぐ使えるプロンプト例(コピペ可能)

経理業務では、出力の正確性と証跡が重要です。そのため、プロンプト側で設計原則と制約条件を先に固定し、手戻りを防ぐ運用が効きます。テンプレート化して共有するやり方は、設計原則と制約条件を組み込んだプロンプトを社内で共有し品質を上げた例とも相性が良いです。
以下は、そのまま使える形にしてありますで、コピペで利用してください。
0 共通の前置き 安全運用の設計原則と制約条件
あなたは経理担当者のアシスタントです。目的は作業を速くしつつ、ミスと手戻りを減らすことです。
設計原則
・結論を断定しない。候補と確認観点を出す
・根拠と不足情報を必ず分けて書く
・出力は短く、見出しと箇条書きで整理する
制約条件
・数値や日付を推測で補完しない
・社内ルールが未提示なら、確認事項として明示する
・個人情報や口座情報が含まれる場合は、伏字にして扱う
・最終判断は人が行う前提で、確認ポイントを必ず提示する
これから貼る情報を、この方針で処理してください。
1 請求書や領収書の要約と必要項目の抽出
以下の請求書テキストを、経理処理に必要な項目に整理してください。
出力形式
1 取引先名
2 請求番号
3 発行日
4 支払期限
5 合計金額 税抜 税額 税込
6 明細の要点 3行まで
7 支払条件 振込 口座などは伏字で可
8 確認が必要な点 不明点や矛盾
請求書テキスト
<ここに貼る>
2 仕訳のたたき台 候補と判断ポイントだけを出す
以下の取引内容から、仕訳の候補を最大3つ出してください。断定は不要です。
各候補について、判断に必要な確認ポイントと根拠の当たり先も書いてください。
出力形式
・取引の要約 2行
・仕訳候補A 借方 貸方 金額は空欄で可
確認ポイント
根拠の当たり先 社内規程や契約書など
・仕訳候補B
・仕訳候補C
・不足情報 追加で必要な質問
取引内容
<ここに貼る>
社内ルール
<分かる範囲で貼る ない場合は空欄>
3 経費精算の差し戻し文面 テンプレ化して手戻りを減らす
以下の申請内容について、不備を分類し、差し戻しメールの下書きを作ってください。
丁寧で短く、提出してほしいものを箇条書きで明確にしてください。
出力形式
1 不備の分類 例 証憑不足 金額不一致 用途不明 など
2 申請者に確認したいこと
3 差し戻しメール下書き 件名 本文
4 添付で案内すべき社内ルール 要点のみ
申請内容
<ここに貼る>
不備の内容
<ここに貼る>
4 支払依頼や取引先対応メール 失礼なく漏れなく作る
以下の状況に合わせて、取引先への確認メールを作ってください。
目的は、確認事項の漏れをゼロにすることです。
条件
・相手の手間を減らすため、質問は最大5つ
・期限がある場合は、理由も一言添える
・口座情報は本文に書かない
出力
件名
本文
状況
<ここに貼る>
確認したいこと
<箇条書きで貼る>
期限
<日付 ない場合は空欄>
5 月次レポートの文章部分 要因整理から下書きする
以下の数字メモから、月次レポートの文章下書きを作ってください。
推測で断定せず、要因の候補と確認観点をセットで出してください。
出力形式
1 サマリ 3行
2 主な増減要因 候補を3つ それぞれ根拠と確認観点
3 リスクと打ち手 2つずつ
4 次月に向けた一言 1行
数字メモ
<前年差 前月差 主要科目の増減などを貼る>
背景メモ
<分かる範囲で貼る>
6 監査対応の想定問答 根拠の当たり先まで一緒に作る
以下の規程と運用メモを前提に、監査で聞かれやすい質問と回答のたたき台を作ってください。
回答は短く、根拠の当たり先も必ず書いてください。
出力形式
・Q
・A 下書き
・根拠の当たり先 規程の章や文書名
・追加で確認すべきこと
規程抜粋
<ここに貼る>
運用メモ
<ここに貼る>
7 問い合わせ対応と運用ナレッジ共有 まずAIに聞く状態を作る
社内規程やマニュアルをAIが理解できるように整え、相談チャットとして公開して業務の滞留を防いだ例があります。以下はこの考え方を経理に置き換えるためのプロンプトです。
あなたは経理の社内ヘルプデスクです。目的は、問い合わせを減らし、回答の品質を揃えることです。
入力として、経費精算ルール 支払締め 請求処理 証憑要件 の資料を渡します。
次を作ってください。
1 よくある質問20個をカテゴリ別に整理
2 各質問の回答 100から180文字 断定できない場合は確認事項を提示
3 回答の根拠として参照すべき資料名と該当箇所の目印
4 問い合わせが増えやすい落とし穴と、事前に防ぐ案内文テンプレ 5本
資料
<ここに貼る>
補足として、会議メモや運用メモをNotebookLMに集約してストックし、関連業務まで効率化した例もあるので、経理でも月次の振り返りや例外対応メモを貯める運用が合います。
8 メールの見落とし防止 経理受信箱の重要度仕分けと要約
大量メールを重要度別に仕分けし、サマリ通知で見落としと確認工数を減らした例の指示形式を、経理向けに落とし込みます。
以下の未読メール一覧を、重要度A B Cに仕分けし、各メールを2行で要約してください。
重要度ルール
A 今日中に処理が必要 支払 請求 締め 取引先依頼
B 期限はあるが今日でなくてもよい 確認依頼 差し戻し
C 参考情報 共有のみ
出力形式
・A 件名 要約 次のアクション
・B ...
・C ...
未読メール
<件名 本文の要点 差出人 受信日を貼る>
第5章 失敗しない運用ルール 経理でAIを安心して回すコツ

経理部門で生成AIを業務に組み込むときは、便利さよりも先に、安全に回る型を作ることが重要です。ここでは、現場で破綻しにくい運用ルールをまとめます。
1 入力してよい情報の線引きを最初に決める
まずは、AIに渡してよい情報と渡してはいけない情報を明確にします。経理の場合は、個人情報や口座情報、取引条件の詳細などが混ざりやすいので注意が必要です。運用ルールとして、伏字や置き換えを徹底し、原本は別管理にします。
2 AIの役割は判断ではなく整理と下書きに固定する
経理で一番安全なのは、AIに結論を断定させない運用です。要約、分類、文面の下書き、確認観点の洗い出しなどに使い、最終判断は必ず人が行います。資料作成でも、AIに壁打ちや構成整理を任せると負担が大きく減ることが示されています。
3 設計原則と制約条件をテンプレ化して共有する
属人化を防ぐには、プロンプトをテンプレ化し、設計原則と制約条件を最初から組み込むのが効きます。厳格な設計原則と制約条件を入れたテンプレを社内共有したことで、修正のやり取りが減り、一発で高品質な成果物が出やすくなった例があります。経理でも、仕訳のたたき台、差し戻し文面、月次コメントなどをテンプレ化すると、品質が揃いやすくなります。
4 証跡と版管理を運用に組み込む
経理の成果物は、後から説明できることが重要です。AIの出力をそのまま貼るのではなく、参照した資料、確認した人、確定した版を残します。とくに監査対応や月次コメントは、根拠の当たり先をセットで残す運用にすると安心です。
5 ナレッジ共有は検索できる形で育てる
問い合わせ対応や引き継ぎで効くのは、ナレッジの資産化です。NotebookLMに法令解釈を読み込ませてFAQ化し、さらに共有用の音声コンテンツまで作って理解を促進した例があります。経理なら、経費精算ルール、証憑要件、締め日、例外処理の判断手順を優先して整備すると効果が出やすいです。
6 権限設計と共有範囲を最初から前提にする
経理データは見せてよい範囲が部署や役職で変わります。GeminiとGASでデータを加工し、部署ごとに必要情報だけを抽出して、閲覧権限を管理したシートに展開した例のように、共有は権限設計とセットで考えます。同じ考え方で、経理のナレッジも全社公開と部門限定を分けると運用が安定します。
7 ChatGPTとGeminiの使い分けの目安
- Geminiが向く場面:調査と要約を短時間で回したいとき。DeepResearchで収集し要約して、作成時間を大幅に短縮した例があります。さらに、GAS連携などで自動化までつなげたいときにも相性が良いです。
- ChatGPTが向く場面:文面の下書き、説明文の整え、構成の壁打ちなど、言葉の組み立てと整理を高速化したいとき。研修教材の構成整理やスクリプト作成で負担を下げた例があります。
経理部門でのChatGPTとGemini活用事例:まとめ

経理部門でのAI活用は、仕訳や判断をAIに任せる発想ではなく、要約や分類、文面の下書き、チェック観点の整理といった下準備をAIに任せることが成果につながります。これだけでも、月次の説明文作成や差し戻し対応、監査向けの想定問答づくりなど、時間を取られやすい工程が軽くなります。
さらに、テンプレ化したプロンプトと運用ルールを共有し、問い合わせ対応やマニュアル整備まで含めてナレッジを資産化できれば、属人化を減らしつつ品質も揃えられます。まずは文章系の業務から小さく始め、効果が見えた型を横展開することが、ChatGPTとGeminiで業務改革を進める最短ルートです。


