世界中で急速に競争が激化するAI分野。最新モデルの性能に目を奪われる一方、「自社導入しても本当に費用対効果はあるの?」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか?
本記事では、中国大手テック企業・百度(バイドゥ)が発表した最新のAI基盤モデルに焦点を当て、圧倒的コスト削減と柔軟な機能拡張といったメリットを解説します。価格だけでなく性能の面でも意外な結果が報告されており、読み進めることで導入検討時に抱えがちな疑問や課題解決の糸口を見つけられるはずです。
グローバル市場だけでなく中国国内での急速なシェア拡大と革新的な価格戦略は、今後のAI導入を左右する可能性が高く、見逃せません。
中国のAI競争と百度の最新戦略

中国のAI市場は、世界のなかでも特に成長と競争が活発な領域です。大手企業や新興プレイヤーが次々と高性能なモデルを投入し、市場シェアを争っています。そんななか、検索エンジン大手として知られる百度は、生成AI分野にいち早く参入し、「ERNIE Bot」で注目を集めてきました。ところが、低コスト路線で急成長したDeepSeekをはじめ、ByteDance(Doubao)やMoonshot AIといった競合他社が台頭し、百度にとっても決して安穏としていられない状況が続いています。
こうした背景下で百度は「ERNIE 4.5」と「ERNIE X1」の2つの基盤モデルを2025年3月16日に発表しました。当初は4月から段階的に公開予定とされていた無料アクセスを前倒しして提供するなど、市場を意識した積極的な動きを見せています。この早期リリースと強気の価格設定からは、シェア拡大と知名度向上を最優先する姿勢がうかがえます。
ERNIE 4.5:低コストで実現する高度なマルチモーダル性能

特徴と性能
ERNIE 4.5は、ネイティブなマルチモーダルモデルとして設計されており、テキスト・画像・音声・動画など複数の形式のコンテンツを統合的に理解できるのが大きな強みです。
百度はさまざまなベンチマークで、ERNIE 4.5がOpenAIのGPT-4系モデルを上回る性能を示したと報告しています。特に数学的推論(MathVista)や文書ベースのQA(DocVQA)などのタスクで好成績を収めており、平均スコアは77〜79点台をマークしているとのことです。
破壊的な価格設定
個人ユーザーは無料で使える一方、企業向けの利用料金は大幅に低く抑えられており、入力が1,000トークンあたり0.004人民元から、出力が1,000トークンあたり0.016人民元からという設定です。これはOpenAIのGPT-4.5と比較すると「コストが1%以下になる」と百度が主張しており、AI導入を検討する企業にとって非常に魅力的な選択肢となり得ます。
マルチモーダルへの需要と将来性
テキストだけでなく画像や音声を扱うAIモデルのニーズは、SNSや動画プラットフォームの普及で急増しています。ERNIE 4.5はこうした流れを反映し、画像や風刺漫画の理解など、より「人間らしい」解釈が可能です。今後さらにデータの多様化が進むなか、マルチモーダル機能は企業がAIを導入する際の大きな決め手となっていくでしょう。
ERNIE X1:半分のコストでDeepSeek R1と同等の性能
高度な推論とツール活用能力
ERNIE X1は、文脈理解や思考プロセスの計画だけでなく、自律的に外部ツールを利用できる点が特徴です。複雑な検索や画像認識、膨大なデータを扱う演算タスクなど、多様な作業フローを自動化する「深層思考推論モデル」として位置づけられています。文学創作や論理的推論など、中国語の高度なタスクにも強く、幅広い場面での活用が期待できます。
DeepSeekへの対抗
費用対効果の高さで注目を集めたDeepSeek R1と同等の性能を、ほぼ半額のコストで提供するとされるのがERNIE X1最大のアピールポイントです。エンタープライズ向けの利用料は、入力1,000トークンあたり0.002人民元、出力1,000トークンあたり0.008人民元からとされ、業界でも屈指のリーズナブルさを誇ります。
オープンソース化の計画
DeepSeek R1がオープンソースとして公開されていることもあり、カスタマイズやコミュニティ主導の開発を重視する層からは注目を集めています。百度も2025年6月末からErnie AIモデルを段階的にオープンソース化する計画を発表しており、今後はオープンソースの利点を取り入れながら市場を一層拡大していく意図がうかがえます。
価格競争と中国AI市場の行方
ERNIE 4.5とX1の発表により、中国のLLM(大規模言語モデル)市場はさらなる価格競争局面に突入すると予測されます。先行して費用対効果の高さを打ち出してきたDeepSeekのみならず、ByteDance(Doubao)やMoonshot AI、そして既存の大手企業であるAlibabaやTencentなど、複数のプレイヤーがしのぎを削っているからです。
この競争がもたらすメリットとしては、
- AIモデルの性能向上がより急速に進む
- 企業や個人ユーザーが低コストで高度な技術を利用できる
- エコシステム全体の拡大による新たなアプリケーション開発
などが挙げられます。一方で競合他社にとっては、強力な価格攻勢と性能アピールによってシェアを奪われるリスクが高まる点が大きな課題となるでしょう。
無料アクセスと市場浸透
個人ユーザーへの無料開放は、膨大なユーザーデータの収集と知名度向上を同時に狙う巧みな戦略といえます。大量の対話ログや使用状況データをモデルの改善に活かすことで、性能やユーザー体験の最適化を加速させられるからです。
短期的には無料提供により収益性が下がる可能性がありますが、長期的には市場リーダーシップを確立し、エンタープライズ向けの有料サービスへ誘導する足がかりになると考えられます。特に制限が緩やかで使いやすい無料版であれば、多くのユーザーを取り込むチャンスが広がるため、結果として製品の完成度向上やブランド力の向上に寄与するでしょう。
エコシステムへの統合と将来の展望
百度は、検索エンジンやWenxiaoyanアプリなどの既存サービスと新モデルを深く統合する計画を進めています。マルチモーダル能力を検索機能に活かせば、テキストだけでなく画像や音声での検索体験を飛躍的に向上させることが可能です。大規模なユーザーベースを持つ検索サービスと高度なAIモデルが結びつくことで、ユーザー体験が革新され、大きな競争優位が生まれるでしょう。
このように百度を中心とする中国企業の積極的な戦略や、DeepSeek・ByteDanceなどのライバル企業との競争は、さらなる技術革新と価格低下を生む好循環をもたらす可能性があります。結果的に、欧米企業も含めたグローバルなAI開発のスピードアップを促し、ユーザーがより多様な選択肢を得られる時代が到来するかもしれません。
まとめ
百度が発表したERNIE 4.5とX1は、マルチモーダル機能の強化や高度な推論機能に加えて、大胆な価格戦略によって中国のみならず世界のAI市場に大きな波紋を投げかけています。個人ユーザーを無料で取り込み、企業向けには圧倒的な低コストプランを提示することで、OpenAIをはじめとした既存勢力やDeepSeekのような新興勢力と真っ向から競合する姿勢を鮮明にしています。
マルチモーダルや思考推論といった高機能を手頃な価格で提供できるかどうかは、実際のユーザー評価や第三者によるベンチマークで検証されるでしょう。とはいえ、今回の百度の動きは競合他社にとって無視できないインパクトであり、中国のAI企業がグローバル市場に与える影響力の高さを改めて印象づけるものといえます。価格競争と技術革新が同時に進む今後の展開は、AIを導入・活用する全ての企業とユーザーにとって見逃せないポイントです。