2025年2月にClaude 3.7 Sonnet、ChatGPT-4.5がそれぞれリリースされました。
この記事ではClaude 3.7 SonnetとChatGPT-4.5を比較しながら、エンジニア視点で解説をしていきます。とくに、各モデルの設計思想や得意分野、技術的なアプローチの違いなどを見ていきましょう。なおこの記事での情報は2025年3月時点のものです。
ChatGPTとClaudeの9つの違い
この記事では以下の9つのポイントを比較していきます。
- 開発元と開発目的
- モデルアーキテクチャとパラメータ数
- プロンプト理解と生成能力
- 長文処理とコンテキスト保持
- デバッグ・コード生成の適性
- 安全性と倫理的フィルタリング
- 総合的な適用範囲
- 料金
- 無料版でも使える機能
1.開発元と開発目的
Claude 3.7 Sonnet
Claude 3.7 Sonnetは、Anthropic社が開発した最新の大規模言語モデル（LLM）です。Anthropicは、AIの安全性と倫理的な利用に重点を置く企業であり、Claudeシリーズもその理念に基づいて開発されています。
Claude 3.7 Sonnetの最大の特徴は、「ハイブリッド推論モデル」として設計されている点です。迅速な応答と詳細なステップバイステップの推論を切り替えることが可能であり、複雑な問題解決やコーディングタスクにおいて高い性能を発揮します。
具体的には、標準モードでは迅速な応答を提供し、拡張思考モードでは問題を詳細に分析し、解決策を計画し、複数の視点を検討してから回答を提供するため、パフォーマンスをさらに向上させることができます。
ChatGPT-4.5
ChatGPT-4.5は、OpenAIが開発した最新の大規模言語モデルであり、2025年2月27日にリリースされました。教師なし学習をスケールアップし、より広範で深い世界の理解を実現しています。
とくに、歴史的、科学的、技術的情報に関する理解が向上しており、事実の正確性が高まり、ハルシネーションの発生も抑えられています。
ChatGPT-4.5はユーザーの意図を汲み取る能力が向上し、IQだけでなく「EQ（心の知能指数）」も高くなっています。そのため、AIが感情を持っているように、より人間らしい対話が可能になっています。人間のテスターが出力の好みをテストしたところ、6割前後がChatGPT-4.5を支持していたとの報告があります。
2.モデルアーキテクチャとパラメータ数
Claude 3.7 Sonnet
Claude 3.7 Sonnetは最大128Kトークンの長文処理能力を持ち、大量の情報を一度に処理することが可能です。 これにより、長文ドキュメントの分析や複数の資料を統合した情報提供が容易になっています。
しかし、具体的なモデルのアーキテクチャやパラメータ数に関する詳細は、現在のところ公開されていません。これは、多くのAI開発企業が競争上の理由やセキュリティ上の観点から、内部の技術的詳細を非公開とする傾向があるためです。
ChatGPT-4.5
ChatGPT-4.5は、Microsoft AzureのAIスーパーコンピュータ上でトレーニングされており、最大128,000トークンのコンテキストウィンドウを持つとされています。
しかし、ChatGPT-4.5の具体的なパラメータ数や詳細なアーキテクチャに関する情報は公開されていません。これは、OpenAIが競争力の維持やセキュリティ上の理由から、詳細な技術仕様を非公開としているためと考えられます。
ただし、GPTシリーズの進化を考慮すると、GPT-4.5は前モデルよりも大幅にパラメータ数が増加し、より複雑なアーキテクチャを採用している可能性が高いと推測されます。
以上のように、Claude 3.7 SonnetとChatGPT-4.5の具体的なアーキテクチャやパラメータ数は公開されていないものの、それぞれ独自の特徴と強みを持つ高度なAIモデルであることがわかります。
3.プロンプト理解と生成能力
Claude 3.7 Sonnet
Claude 3.7 Sonnetは、迅速な応答を提供する「標準モード」と、複雑な問題に対して段階的な深い推論を行う「拡張思考モード」の2つのモードを持つ「ハイブリッド推論モデル」として設計されているため、タスクの性質に応じて適切なモードを選択し、最適な結果を得ることが可能です。
とくにコーディングタスクにおいては、Claude 3.7 Sonnetはその高度な推論力と拡張されたコンテキスト処理能力を活用し、コードの生成やエラー修正、テストの実行などを効率的に行います。
対話形式でモデルにコードの生成を依頼でき、さらにそのコードの内容を自動的にテストしたり、大規模なコードベースの中から関連部分を抜き出すなどの柔軟な操作も可能です。
ChatGPT-4.5
ChatGPT-4.5は文章生成やデザインなどのタスクにおいて優れた性能を発揮します。ユーザーの意図を汲み取る能力が向上し、より人間らしい対話が可能となっています。
ただし、高度な推論を要するタスク（数学の証明や複雑な論理パズルなど）では、o1などの推論特化モデルに及ばない場合があります。
実際、OpenAIの社内テストによると、数学や科学分野の難問では、推論特化モデルの方がChatGPT-4.5より高得点を記録しています。 そのため、コーディングタスクにおいては、Claude 3.7 Sonnetに比べて性能が劣るとされています。
4.長文処理とコンテキスト保持
Claude 3.7 Sonnet
Claude 3.7 Sonnetは、長文のコンテキスト保持に優れた性能を持つAIモデルとして知られています。とくに、最大200,000トークン（場合によっては実験的に100万トークン超）の長文を一度に処理可能であり、複数の文書にまたがる文脈を把握し、一貫性のある回答を生成する能力を備えています。
膨大な文書や複数の資料を一括で解析し、長編小説のプロット生成や大規模なレポートの要点抽出など、従来困難だったタスクにも対応可能です。
ChatGPT-4.5
ChatGPT-4.5もコンテキスト保持能力が向上しており、長文の処理や複雑な会話の維持が可能となっています。具体的には、最大32,000トークンの長文プロンプトの処理が可能であり、従来より長文のプロンプトでもスムーズに処理できるようになっています。
長文ドキュメント全体を一貫して理解し、要約や分析を行う能力や、会話の履歴を保持し、文脈に沿った応答を継続する能力が強化されています。
また、ChatGPT-4.5は、従来よりも文脈を深く理解できるように最適化されており、長文の文章や複雑なトピックについても、意味を正しく捉え、より適切な回答を生成する能力が向上しています。
5.デバッグ・コード生成の適性
Claude 3.7 Sonnet
Claude 3.7 Sonnetは、コーディングタスクにおいて高い性能を発揮するよう設計されています。とくに、複雑なコードの生成やデバッグにおいて、その能力が際立っています。
Anthropic社が提供する「Claude Code」というエージェント型コーディングツールの導入により、開発者はコードの生成、編集、テストの実行、GitHubへのコミット、さらにはコマンドラインツールの使用など、多岐にわたるタスクを効率的に行うことが可能となっています。
Claude 3.7 Sonnetは、ソフトウェアエンジニアリングのベンチマークであるSWE-bench Verifiedにおいて、他のモデルを上回る高い精度を記録しています。複雑なコードベースの処理や高度なツールの利用、フルスタック開発の計画、エージェントワークフローの精度向上、デザイン性の高いコード生成とエラー削減など、多岐にわたるコーディングタスクにおいて、その優れた性能が証明されています。
ChatGPT-4.5
一方、ChatGPT-4.5はコーディングタスクに関して、Claude 3.7 Sonnetに比べて性能が劣るとされています。
実際、学術ベンチマークにおいて、GPT-4.5は従来モデルと比較して性能向上を示していますが、ソフトウェアエンジニアリングの特定のベンチマークにおいては、Claude 3.7 Sonnetの方が高い精度を記録しています。
6.安全性と倫理的フィルタリング
Claude 3.7 Sonnet
Claude 3.7 Sonnetは、安全性と倫理的なフィルタリングを強化するために、Anthropic社の「AI Safety Level 2（ASL-2）」フレームワークに基づいて開発されています。 このフレームワークは、モデルが危険性のある情報を提供する可能性を低減しつつ、ユーザーに有益な情報を提供することを目指しています。
さらに、Anthropic社は「Claude 3.7 Sonnet System Card」を公開し、モデルの安全性評価や倫理的配慮についての詳細を明らかにしています。 このシステムカードでは、プロンプトインジェクション攻撃などの新たなリスクに対する評価や、モデルがそれらの脆弱性に対抗するための学習方法についても説明されています。ユーザーが意図しない内容やバイアスの排除に注力し、透明性のある責任あるAI開発の姿勢が示されています。
ChatGPT-4.5
ChatGPT-4.5も信頼性の高い応答を提供するよう設計されていますが、安全性と倫理的フィルタリングに関する具体的な情報は公開されていません。
しかし、OpenAIはAIモデルの安全性と倫理的利用に関する取り組みを進めており、AI技術を安全かつ倫理的に活用するためのベストプラクティスとガイダンスを組織に提供することを目指しています。
また、OpenAIはモデルの仕様書を公開し、AIモデルがどのように振る舞うべきかを定義しています。この仕様書は、カスタマイズ性、透明性、そして「知的自由」を強調しており、ユーザーが任意の制限なしにアイデアを探求し、議論できる能力を提供することを目指しています。
7.総合的な適用範囲
Claude 3.7 Sonnet
Claude 3.7 Sonnetは、にコーディングタスクや複雑な問題解決において高い性能を発揮します。「ハイブリッド推論モデル」として設計されているため、迅速な応答と詳細なステップバイステップの推論を切り替えることが可能です。タスクの性質に応じて最適な推論モードを選択でき、複雑な問題解決やコーディングタスクにおいて高い性能を発揮します。
また、Claude 3.7 Sonnetは、複雑なコードベースの処理や高度なツールの利用、フルスタック開発の計画、エージェントワークフローの精度向上、デザイン性の高いコード生成とエラー削減など、多岐にわたるコーディングタスクにおいて、その優れた性能が証明されています。
ChatGPT-4.5
ChatGPT-4.5は文章生成やデザインなどのタスクにおいて優れた性能を示します。前身のGPT-4oに比べて会話精度や文章表現力が大幅に向上しており、感情的な知性（EQ）が高まり、人間に近いコミュニケーションが可能となっています。
また、ChatGPT-4.5はハルシネーション率（誤った情報を生成すること）が大幅に低減されており、情報の正確性が高まっています。専門的な質問やメール文の作成支援など、ビジネスシーンでの活躍範囲がさらに広がりました。クリエイティブなタスクにおいても、その高い文章生成能力を活かして、コンテンツ制作やデザインのアイデア出しなどに活用されています。
8.料金
Claude 3.7 Sonnet
Claude 3.7 Sonnetは無料でも利用可能ですが、「拡張思考モード」などの高度な機能は月額$20の有料プランで提供されています。 モデルで、以下の料金プランが用意されています。
- 無料プラン: Claude.ai上で基本機能を無料で利用可能です。ただし、「拡張思考モード」などの高度な機能は利用できません。
- 有料プラン:
- Proプラン: 月額$20で、「拡張思考モード」を含む追加機能が利用可能です。
- Teamプラン: 月額$30で、チーム向けの機能が提供されます。
- Enterpriseプラン: 企業向けのカスタマイズされた機能とサポートが提供されます。
API利用時の料金は以下の通りです。
- 入力トークン: 100万トークンあたり$3
- 出力トークン: 100万トークンあたり$15（「拡張思考モード」で消費される思考用トークンも出力トークンとして計算されます）
これらの料金は、前モデルであるClaude 3.5 Sonnetと同じ価格設定となっています。
ChatGPT-4.5
ChatGPT-4.5は、OpenAIの最も高価なAIモデルで、以下の料金体系となっています。
- API利用料金:
- 入力トークン: 100万トークンあたり$75
- 出力トークン: 100万トークンあたり$150
これは、前モデルであるGPT-4oの入力トークンあたり$2.50、出力トークンあたり$10と比較して、入力で約30倍、出力で約15倍の価格設定となっています。
また2025年3月現在、ChatGPT-4.5はChatGPT Plusユーザー、ChatGPT ProユーザーおよびMicrosoft Azure AI Foundryのエンタープライズ顧客向けのみに提供されています。
9.無料版でも使える機能
Claude 3.7 Sonnet
Claude 3.7 Sonnetは、無料プランでも以下の基本的な機能を利用することが可能です。
- 標準モードでの利用: 無料プランでは、標準モードを使用して一般的なタスクを実行できます。
- コーディングタスクのサポート: 標準モードでも、コードの自動生成やバグの発見と修正、コードの解説など、コーディング関連のタスクをサポートしています。
ただし、「拡張思考モード」などの高度な機能は有料プランでのみ利用可能です。
ChatGPT-4.5
無料プランでは、従来のモデル（例えば、GPT-3.5など）を利用することが可能ですが、ChatGPT-4.5の高度な機能を利用するには有料プランへの加入が必要です。
ChatGPT-4とClaudeの比較：まとめ
ClaudeとChatGPT選択は、エンジニアが取り組むタスクの性質や必要な応答の深さ、安全性の要件に依存します。それぞれに特徴があるため、目的に合わせた生成AI選びが重要です。
