ビジネスの現場で進む真のAIエージェント活用事例
「AIの導入で人間の仕事がなくなるのでは?」という不安が語られる一方で、実際には“人とAIの協力”によって大きな成果を上げている企業が続々と出てきています。意外かもしれませんが、AIエージェントはすでに私たちが想像する以上に活躍しており、人間のスタッフを置き換えるのではなく、サポートしながらスピード感や効率性を高めています。
ここでは、米国の製造企業BACA Systems(以下、BACA)と法人向けケータリングを手掛けるezCaterの事例をもとに、“AIエージェントがいかにして現場を変えているか”を探っていきます。
5分以上の対応時間が数秒に─BACA Systemsの驚くべき成果
“最初の meaningful response” がすぐに返せる
ミシガン州に拠点を置くロボット製造企業BACAでは、以前まで顧客からの問合せに対して、担当者が既存のケースを探して類似事例を把握し、さらには技術文書を読み込むというプロセスを踏んでいました。最初の「意味のある回答(first meaningful response)」にたどり着くまで、およそ5〜7分はかかっていたそうです。
ところが、Salesforceが提供するAIエージェントを活用したところ、わずか5〜10秒で必要な情報が自動抽出されるようになりました。問合せ内容に近い過去ケースや関連ドキュメントが瞬時に提示されるため、人間のオペレーターはすぐに回答やトラブルシューティングを始められます。
目的は「顧客をより早く動かす」こと
BACAのエンタープライズ・アーキテクト、Andrew Russo氏によると、この変化は決して「人員削減」が狙いではありません。あくまで「顧客の稼働時間をできる限り短縮する」ことが大きなゴールだといいます。実際、AIが情報収集をサポートすることで、人的リソースはより複雑な問題解決や付加価値の高い業務に専念できるようになりました。
営業活動にもAIが活躍
またBACAのような小規模企業では、営業担当が数百人もいるわけではありません。そのため、未アプローチのリード(顧客候補)にどのように効率よく連絡を取るかが課題です。ここでAIエージェントを“仮想の営業担当”として稼働させ、見込み客との初期のやりとりやメール送付を自動化し、一定の段階になったら実際の営業担当へバトンタッチする──そうした仕組みが導入されています。
さらにBACAでは、パーツの重複チェックや請求書作成、支払い催促メールといった業務でもAIを応用。細かい処理はAIエージェントが担い、人間のスタッフが重要な交渉や関係構築といった“人にしかできない”部分に集中できるようになりました。結果として、従業員からも「もっとAIを使いたい」という声が上がっているといいます。
ezCaterでのAI活用─複雑なケータリング手配をスムーズに
人手が追いつかないケータリング事情
社員食や会議のケータリングは、「人数変更」「食事制限」「会場の変更」など変数が多く、当日や直前になって変更が起こることも珍しくありません。大規模なオーダーが重なると、担当者は膨大な電話とメール対応に追われることになります。
ezCaterはSalesforceのAIエージェント「Agentforce」を導入することで、単純な注文変更や問い合わせを自動化しようとしています。顧客が自然言語で「人数を増やしたい」「メニューを変更したい」などの要望を伝えると、AIが自動的に注文システムに変更を加え、内容によっては必要に応じて人間のオペレーターへ引き継ぐという流れを構築しているのです。
AIがレストランを「提案」する
さらにレストランの検索・提案業務にもAIが威力を発揮します。「予算」「場所」「食の好み」「人数」など多岐にわたる条件をもとに、最適なレストランの候補をAIがガイドしてくれるイメージです。これは膨大な過去注文データを参照しながら自然言語で対話できるという、AIエージェントの強みが生かされています。
“ソフトウェア開発”的なアプローチ
ezCaterのCTOであるErin DeCesare氏によれば、エンジニアにとってAIエージェントの開発は「ソフトウェアを作る感覚に近い」といいます。具体的に言えば、テスト環境やQA(品質保証)のステップ、デプロイ(本番運用への移行)といったプロセスを踏みやすいため、技術チームが「AIエージェントもソフトウェアのひとつ」として扱いやすくなったのです。
ビジネスサイドからも「分析レポートの作成」や「プロセスのマッピング」といった幅広い要望が寄せられ、短期間でプロトタイプを試せる機動力がAIエージェント導入のメリットにつながっています。
AIエージェントは「人間の補佐」として進化中
BACAやezCaterの事例から見えてくるのは、AIエージェントが単に“人件費を削る”ための道具ではなく、「顧客対応のスピードアップ」「営業機会の拡大」「バックオフィス業務の効率化」など、あらゆる業務改善につながる存在であるということです。人間がすべてを担当するには時間もコストもかかりすぎる部分をAIに任せ、人にしか対応できない複雑な相談やクリエイティブな課題にフォーカスする。そんな“共存”によって、企業と顧客の双方に大きなメリットを生み出しています。
今後12カ月、いや数カ月のうちにAIの活用がさらに加速し、私たちの日常やビジネスの“当たり前”がまた一歩進化していくのは確実でしょう。あなたの会社でも「意外なところがAIに置き換わった」「気づかないうちにAIが重要なサポートを担っていた」という状況がすぐにやってくるかもしれません。そうした変化を楽しみながら、人とAIの協調が創り出す新たなビジネスチャンスに備えていきたいところです。
参考)Not just hype — here are real-world use cases for AI agents