「自社専用モデル」と「特化型モデル」──企業の生成AI導入が“第二段階”に進む理由

AI活用ブログ
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生成AIの導入が広がるにつれ、企業の中では新たな課題も生まれています。業界特有の専門知識や自社データを正確に扱いたい、セキュリティリスクを最小化したい、社外サービスへの依存度を減らしたい──。

こうしたニーズに応える形で注目されているのが、「自社専用モデル(カスタムLLM)」と「特定用途特化型モデル」という2つの方向性です。どちらも生成AIのビジネス活用を進める上で欠かせない選択肢ですが、その設計思想や活用範囲は大きく異なります。本稿では、「自社専用モデル(カスタムLLM)」と「特定用途特化型モデル」の違いと導入の考え方を整理しながら、企業の生成AI戦略が次の段階へ進んでいる現状を解説します。


最近「社外に出せないデータで生成AIを使いたい」という相談をいただきます。ChatGPTの利用は社内で禁止されているそうです。セキュリティやコスト面が気になる企業には、社内のローカル環境で動かせる仕組みがあることはご存知ですか?
OpenAIのオープンなAIモデル「gpt-oss」も利用いただけます。

自社専用モデルとは:社内データを学習する“企業のためのAI”

自社専用モデル(カスタムLLM)は、既存の大規模言語モデル(LLM)をベースに、自社の業務データやナレッジを組み合わせて最適化したものです。ChatGPTやClaude、Llama 3などの汎用モデルに、社内文書やFAQ、議事録などを取り込むことで、企業独自の知識を反映させたAIが構築できます。

導入手法としては、ファインチューニングやRAG(検索拡張生成)、プロンプト最適化などが一般的です。これにより、汎用モデルでは難しい社内固有の表現や文脈を理解し、精度の高い応答を生成できるようになります。

自社専用モデル(カスタムLLM)を導入するメリット

自社専用モデル(カスタムLLM)を導入するメリットは大きく3つあります。

  1. セキュリティ:自社サーバー内や専用クラウド環境で運用可能。
  2. 再現性:業務ルールや専門用語を反映でき、回答品質が安定。
  3. 差別化:社内知見を学習させることで、他社には真似できない応答を実現。

ChatGPT Enterpriseの「Custom GPT」機能や、富士通の「LLM Ops」などは代表的な例です。これらは単なるAI利用ではなく、企業文化やナレッジをAIに内包させる試みと言えるでしょう。

特定用途特化型モデルとは:業務ごとに最適化された“プロAI”

一方の「特定用途特化型モデル」は、特定の業務領域やタスクに特化して開発された生成AIです。法務、医療、営業、カスタマーサポートなど、明確な目的をもって設計されるのが特徴です。

このタイプは、多くの場合ベンダーが提供するSaaS形式で導入されます。企業側は自前でAIを構築する必要がなく、業務シナリオに応じて既成のAIを利用できます。たとえば、法務分野では「Harvey AI」が契約書のレビューやリスク検出を自動化し、医療では「Med-PaLM 2」が診療記録を要約・分析します。営業分野では「Drift AI」や「HubSpot AI」が見込み客の対応を自動化し、成約率向上に寄与しています。

特化型モデルを導入するメリット

特化型モデルの利点は、導入のしやすさと即効性です。既に訓練済みのAIを利用できるため、初期コストを抑えながら短期間で成果を得られます。その一方で、柔軟性は低く、仕様やカスタマイズ範囲はベンダーに依存します。自社の特殊なルールや独自データを反映させるには制約が残ります。

両者の違いと使い分け方

生成AI導入を検討する際に重要なのは、「自社専用モデル」と「特化型モデル」のどちらが目的に合うかを見極めることです。以下のように整理できます。

観点自社専用モデル(カスタムLLM)特定用途特化型モデル
開発主体自社または委託開発ベンダー提供(SaaS型)
対応範囲社内全体・複数部署部門・特定業務
柔軟性高い(再学習・拡張可)限定的(仕様固定)
コスト初期投資高・長期ROI月額課金で手軽
セキュリティ社内閉域運用が可能クラウド依存が多い
代表例ChatGPT Enterprise, Llama 3 RAG構築, 富士通LLM OpsHarvey AI, Med-PaLM 2, Drift AI

自社専用モデルは、長期的に業務全体の効率化を図る“戦略的AI”。特化型モデルは、短期間で成果を上げたい“実務AI”。企業のAI成熟度やIT体制に応じて、この2つをどう組み合わせるかが次の鍵になります。

たとえば、まずは特化型モデルで成果を実証し、次にカスタムLLMを構築して全社横断のAI活用へ拡張する、というステップが現実的です。

事例で見るAI導入の第二段階

グローバルではすでに多くの企業が、自社データを活用した生成AI環境を構築し始めています。金融大手のJPモルガンは、社内情報を検索可能にするカスタムLLMを開発。コンサルティング企業PwCは、社内の知見を統合する「ChatGPT Enterprise環境」を構築し、グループ全体で展開しています。

国内でも、商社やメーカー、通信企業などがRAG型の社内AIを導入し、社員が自社文書から瞬時に情報を引き出せる環境を整えつつあります。

一方で、スタートアップや中小企業では、特化型モデルを導入して特定領域の生産性を高める動きが加速しています。営業支援AIやカスタマーサクセス向けAIなど、低コスト・短期導入を重視したツール活用が広がっています。このように、AI導入は「とりあえず使う」段階から「業務に最適化する」段階へと確実に移行しています。

まとめ:これからのキーワードは「自社適合性」

生成AIを取り巻く競争は、もはや「どのモデルを使うか」ではなく、「どう自社に適合させるか」というフェーズに入りました。ChatGPTやClaudeのような汎用AIは強力な基盤ですが、そのままでは企業固有の文脈を理解できません。重要なのは、自社の知識・データ・文化をAIに反映させることです。

今後の企業競争を左右するのは、AI導入の速度ではなく「自社に合った設計力」です。自社専用モデルで組織全体を賢くし、特化型モデルで現場を強化する。この二段構えの戦略こそ、AI時代の企業が持つべき新たな武器と言えるでしょう。

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監修者:服部 一馬

フィクスドスター㈱ 代表取締役 / ITコンサルタント / AIビジネス活用アドバイザー

非エンジニアながら、最新のAI技術トレンドに精通し、企業のDX推進やIT活用戦略の策定をサポート。特に経営層や非技術職に向けた「AIのビジネス活用」に関する解説力には定評がある。
「AIはエンジニアだけのものではない。ビジネスにどう活かすかがカギだ」という理念のもと、企業のデジタル変革と競争力強化を支援するプロフェッショナルとして活動中。ビジネスとテクノロジーをつなぐ存在として、最新AI動向の普及と活用支援に力を入れている。

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